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夢小説のDLove

Mr.パンプキンス

 Mr.パンプキンス、月曜日はいつもゴルフに出かけてビールを飲んでは、クラブを握る。
ほうら、飛んだ、飛んだ。ホールインワン!
Mr.パンプキンス、火曜日はいつものカフェでのんびりランチタイムを楽しむ。ウェイトレスの女性がいつだって彼を見つめているのを知りながら、花束をテーブルに置いていくのが彼の優しさなのさ。
Mr.パンプキンス、水曜日はいつもジムへ行く。水の中でわざと息継ぎしないで泳ぐ。どこまで泳げるのか計測しては喜んでいる。
Mr.パンプキンス、木曜日はいつも図書館へ行く。窓際で景色を楽しみながら、いつだって母国語以外の本を呼んでいる。司書の女性が嬉しそうに声をかけてくるのも日常の光景。
Mr.パンプキンス、金曜日は映画館へ行く。ナイトショーの二本立てを見る。チケットもぎりの男が囁く、今夜は、可愛い女の子は一緒じゃないのかい?汚い笑顔を浮かべている。
Mr.パンプキンス、土曜日は何処へも行かない。いつも部屋で図面とパソコン、それから趣味の道具を眺めている。これが彼の大切な時間。でも誰も知らない。
Mr.パンプキンス、日曜日は人を殺す。通りすがりの人間、顔見知りの誰か、インスピレーションを感じた人間、彼が勝手に選んだ人間を計画した通りに殺す、ときには衝動的に殺す。土曜日に作った図面は罠の設計図、手入れした道具は光るナイフ。
一仕事終えると、Mr.パンプキンス、とても良い気分。



 ある日の月曜日。
Mr.パンプキンス、とても綺麗な女性に出逢った。
金色の髪を揺らして歩く様子は天使みたい、Mr.パンプキンス、感涙して後を追った。
現世にやっと自分を導いてくれる天使が現れたのを彼は知ったのだ。
今日は日曜日ではなかったけれど、ナイフを翳して天使を捕まえた。

天使は掴まれた腕を見て、くすぐったいと笑ったよ。
体をよじって笑い、ナイフなんか怖くないみたい。
これにはMr.パンプキンス、感動してしまって胸がいっぱいになってしまった。
そしてMr.パンプキンスは警察に捕まった。
死刑台へ上がることになった彼は呟いた。
ああ、月曜日じゃなくて日曜日だったら殺せていたのに。
 くすくす笑う天使は首が絞まって舌が伸びたMr.パンプキンスを見て、また笑っていたよ。



 山四河 鎚縄(やましが つちなわ)はMr.パンプキンスを間抜けだと童謡を聞く度、本で見る度、心中で呟かずにはいられない。
この唄で狩人はMr.パンプキンスではない、最後に現れた天使だ。
彼女はきっと己の美しい容姿を利用して、幾人もの男を惑わして地獄へと落としたに違いない。
恐るべき殺人鬼は彼女にこそふさわしい名称なのだ。




 絵本から顔を上げると、小児科病棟に入院しているマコが首を傾げて自分を見つめていた。
「やませんせいはパンプキンスがすきなの?」
「どうしてだい?」
 こんな間抜けは嫌いだと思いながら尋ねると、マコが子どもだけが持つ無垢な輝きを瞳に宿して俺の白衣の裾を掴む。
「だって、さっきからずうっと絵本をみてるんだもん。マコはパンプキンスより天使がすき!将来は天使になりたい」
 まだ十歳にもならないマコが将来、娼婦になりたいと口走った現実に俺は腹を抱えて笑いたいのを我慢する。
「看護師さんたちの言うことを聞いて、いい子にしていたら天使になれるよ。マコは綺麗だからね」
 頭を撫でてやると、マコはすっかり機嫌が良くなったらしく、白いベッドに大人しく横たわった。癇癪を起した彼女が壊した花瓶や、過保護な親が飾っていたぬいぐるみたちの残骸など気にもかけていない。
 マコの病室を出ると、看護師たちが集まって来た。
「先生、マコちゃんは落ち着きましたか?」
 彼女に引っ掻かれ、噛みつかれた看護師たちは疲れ切りながらも心配そうな表情を一様に浮かべている。
「落ち着いて寝ていますよ。もう少し、そっとしておいてあげればもう大丈夫だと思います」
 俺は小児科の医師ではない。
だが、マコは入院するなり、主治医ではなく外科医の俺になついた。手のつけられない癇癪の持ち主(それこそが彼女が入院している理由だ)のマコだが、俺の話だけはよくきく。
もちろん主治医の東那賀(とうなが)に面白く思われていないのを承知しているが、こればかりは俺の責任ではないし、計画したことでもない。
結果として俺が日本でも十指に入るだろう、裕福な資産家であるマコの両親に気に入られて院長たちなど上の人間たちの覚えがめでたくなったことは事実ではあるが。
 恐らく、マコは非常に残忍な性格の持ち主なのではないだろうか。
親が持ってきたぬいぐるみをバラバラに引き裂くのは殺人の代償行為で、俺になついたのは同類の匂いを子ども特有の直感で見抜いたのだろう。
彼女はまだ自分の中に眠る性質に気づいてはいないが、将来、彼女はMr.パンプキンスを殺した天使のようになれるかもしれない。
今のマコが望む天使の姿とは違うかもしれないが、真実の天使の姿になれるのなら夢が叶ったといえる。少なくとも、俺は絵本に出てくる天使の方が好きだ。
 深夜の廊下を歩きながら、明日はきっと東那賀がお礼と称した皮肉を言いにくるに違いない、と俺はそっと溜息を吐いた。
マコの主治医である東那賀は痩せた女で、黒い髪を束ねているが艶のある輝きがある。化粧をしないのに、肌は潤い、唇も血色が良い。
だから俺は彼女を殺したいとは思えない。
魅力がない。いま、まさに人生を楽しんでいると叫び出しそうな健康な姿は俺のやる気を削いでしまう。
俺が好きなのは最期の最後に自分自身の生きたいという、強い欲望に気がついた人間の姿だ。東那賀はきっと殺されそうにならなくても自分が生きたくて、生きたくて仕方ないと知っている。
そんな人間を殺すのは労力がかかるし、何より見苦しいものを見る羽目になるになってしまう。それは俺の好みじゃない。
ただ泣き叫ぶ人間を見たいのならスプラッタホラーを観ればいい。
俺が見たいのは、最後の瞬間に弾けるように輝く生への欲望、渇望だ。
だから獲物は慎重に選ばなくてはいけない。電車で見かけた、疲れ切って歩くことすら面倒だといわんばかりの女は素晴らしい獲物だった。
次に選んだのは昼間からビールを飲んでスポーツ新聞を読んでいる男だった。
死にたいか、と聞いたら俺が死んだら家族が喜ぶ、と笑って答えた。
実際、家族は葬儀で涙ひとつ見せなかった。男がどれほど抵抗し、最後に自分たちの名前を呼んだのを妻も息子も知らないのだ。
 暗い廊下で窓に自分の姿が映る。
白衣を着た無駄に長身の体躯の男。医師でありながら、夜になれば人を切り刻むシリアルキラーへと変貌する。
医師の姿とシリアルキラー、どちらが本当の自分かと訊かれたらならば両方だと答える。
そもそも自分でないときなど存在しない。いつでも自分の意思と感情で行動する動物なのに、本当の自分というものを問題にする方が馬鹿げている。
 Mr.パンプキンス、あなたの間違いは天使に救いを求め、自分を委ねたことだ。
どんなときも自分の意思は自分の中にしかない。
俺が見つける天使は俺の中にいる。
 さて、今夜はもう帰宅しよう。車に乗って獲物を物色し、俺の趣味を楽しむことにしよう。
足取り軽く、車の中にあるMr.パンプキンス曰く『趣味の道具』に思いを馳せる。
今夜、どこかで誰かが生への渇望を叫ぶだろう。


 それは月曜日の出来事だった。



                 〈了〉
企画小説酸欠様:『月曜日のこと』提出作品



作者:藤森 凛


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