タイムマシンが欲しいよ










ずっと前から分かってた



最初から知っていて
それでも諦められなくて



自分が望んだ、この関係が


時折
死にそうなほどに胸を刺す






最初から
知っていたのに―














「どうしたんですか?」



「…別に」



「はは、たまにはゆっくりお茶でもしましょうか」



「野郎二人で茶して何が楽しいんだよ、馬鹿か」



「う、駄目でした?えーと…」






急に呼び出されて
そんな顔を見せられて




ああ、また



ずきり痛む
この感情を





「…どっか」





上手く表現出来ない
ただただ 思うのは





「飲みにでも行くかー」




「自分、未成年な上に学生ですから」





もっと早く
あの人より

早く




自分が出会っていたなら


なんて











「そか、呼ぶ相手間違えたな!真吾帰ってよし!!紅丸にしよ」



「ちょ、う、ぇえ!!?」



「あ、もしもし俺だけど」



「うお!ホントに呼んでる!ちょ、待って下さいよ草薙さんッ」






あり得ない事だと
誰より分かってる




あの人あってこその草薙さんで


それがあって初めて、自分がここに存在していると






「ちっ、何だよバーカ、紅丸バカ!バカ丸!」



「小学生すか」



「あー仕方ねえな!コンビニで酒でも買って家行くぞ、真吾」



「は、ハイ!」







分かってる
今のままで幸せなのだと




自分の身に余る立ち位置に置いて貰っている

本来なら話すことなど叶わない
選ばれた人

―その近くに居るというだけで






「よっし、親父居ないな」



「お、お邪魔します!」



「やかましい、とっとと俺の部屋にそれ運んどけ」



「え、草薙さんは」



「なんか適当につまめる物探してから行くわ」



「おす、分かりました!」



「一々声がでけぇ!早く行けっ」





こんなに近くに居られるだけで

これ以上何を望むのだというほどに

しあわせ なのに






自分の気持ちに気付いたと同時に

終わらせなければいけない事も

分かってしまったから









「失礼しまーす…」



「職員室か!黙って入れ」



ぼんやりしていて、草薙さんが階段を上がる音に気が付かなかった

後ろから軽く蹴られて部屋に入る



「を、いてっ!調達早いッスね」



「酒飲むヤツが他に居るからなー大体いつも何か置いてあんだよ」




ガサガサ
置かれたコンビニ袋から缶を取り出して小さなテーブルに2つ並べる



「他のお酒、この冷蔵庫に入れて良いですか?」



「おう」



「良いですよね、自分の部屋に冷蔵庫!」



「んー?」




どうでもいい
そんな声がしそうな顔を向けて缶ビールに手を伸ばす



「あ、わ、待って下さい!俺も」



それを見て慌てて自分も烏龍茶を手に取った



「へへ、乾杯!」



「…何にだよ」



草薙さんの部屋で一緒にお酒を飲む

そんなシチュエーションに
テンションが上がってる俺に対して草薙さんは



「…」



「…………」



不機嫌に缶に口を付けて
携帯を気にしてる



俺の前で口には出さないけれど
いつも、そうだ



やっぱり"あの人"を
待っている

拗ねた子供のように
口を尖らせたりしながら

携帯を触っては、置き
鳴らないそれを不満気に眺めてる




「草薙さんっ」



「!」



「キス、したいッス」



「、ゎ、てめッ」



左手にビール
右手に携帯



防げないのを分かってて
額に唇を付けた



「…く」



「隙ありー!ってとこですかね」



「テメェ…」



いつもそうなんだ
草薙さんがこうやって俺を呼び出す時は



「…八神さんが、どうかしたんですか?」



「!な、アイツの話はいいだろっ」



いつも

八神さんと喧嘩したり
何か面白くない事があった時で



「ふふ、」



「何だよ…気持ちわりぃな」




  『八神さん』


その単語が俺の口から出ると
草薙さんは決まってバツが悪そうな顔をする




「なんか、良いッスね、そういうの!」



「あ?」





草薙さんにしてみたら、八神さんの話題に触れたくないから俺を横に置いてるのに




「なんか、こう…」



分かっているのに
敢えてそこに



傷を拡げる

みたいに





「唯一無二、っていうんですかね?」



「……」



「他には代わりがきかない、そんな存在ですもんね!」



「……」



「羨ましいですよ、やっぱり!いいなぁ、俺にもそんな風に」

「やめろ」




ピリ、とした空気に思わず口を止めた



ヤバイ

つい喋り過ぎた
何でだろう
こんなの最初から分かってた事なのに




「…、すみませ」



「別に」




謝る事もねえだろ

そう言ってまた
寂しそうにお酒に手を伸ばす





ああ
その瞳が映すのは自分ではない


届きようもない、"あの人"



それなのに
どうしてこんなに







あなたを愛しく想って
狂おしいほどに求めて





この手でめちゃくちゃにして
自分の下で啼かせて
どうか自分だけのものに




だなんて
歪んでる
俺は汚い


頭では分かっているのに
欲を押し付けたくなる





―ああタイムマシンでもあれば



もっとあなたに深く映り込む事ができただろうか




俺も"あの人"のような存在になれただろうか







「…大丈夫ですよ」




カラン…

空いた缶を草薙さんの手から取り上げて
距離をつめる





「八神さんは、草薙さんの事が大好きですから」




ふぅ、とわざとらしく
柔らかな黒髪に息が掛かる近さで呟くと
ビクリと顔を逸らす




「でも」




頬を撫でて
戸惑う視線をゆっくり捕まえるこの感覚も





「…ちょっと、つまみ食いくらいは誰でもするんじゃないですか…?」




揺れる

黒い瞳も
息も
鼓動も





全部見逃さないように真っ直ぐ見つめて



その唇を塞いだ





「っ…ん、ぁ」






ごめんなさい




好きです




その戸惑いを隠せない綺麗な目も
艶っぽく誘う黒髪が掛かるうなじも





俺のものにする事は叶わないと知っている



だから
今だけ





突き刺さる棘を抜くことを選ぶより




「っ…や、しん、ご」




もっと深く深く

その棘をすべてこの身体に受け入れて

突き刺して





「…草薙、さん」






ねえいつかその棘で死ぬことが出来たなら
俺は幸せなんじゃないか
だなんて









やっぱり

歪んでいる だろうか












―――――――――――――――――

おわり





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