第一話

――……それはボンゴレデーチモが作戦により、仮死状態になって少したったある日の話。


「絶対罠だよ、白蘭の……!」
「そうだ。話し合いだとか言って、お前を殺す気だ……未来!!」


その場にいる全員の注目が、一人の女性に集まる。
そんな彼女は、張りつめた空気を破るように長いため息をついて、腰まで伸びた藍色の髪を掻き乱す。


「……そうだろうね」
「そうだろうねって……!」
「分かってんなら、何で行くんだ!?」


彼女は少しため息をついてから口を開いた。


「白蘭は、もし話し合いに来たらファミリーには手を出さないようにするって言ってたんだよ。だけど同時に、来ないなら手あたり次第ボンゴレにかかわるものを攻撃するとも脅してきた。……選択肢は残されてないよ」
「っそんなうまい話があるわけねーだろ!? 明らかに嘘だそんなの!」
「それでも……僕がそれに行かずファミリーに危険を及ぼすのと、僕がそれに行ってファミリーに危険が及ばなくなるかもしれないという二つの選択肢があるなら、僕は後者を選ぶよ」
「っ……でも!」


二人が言葉に詰まる。そんな二人を見て、未来は少し目を細めた。

僕だって、こんなの行きたくないよ。
……でも僕のせいで、ファミリーを危険な目に合わせるわけにはいかない。僕は絶対に自分を恨むから。絶対に自分を、赦せないから。
だから行かせてほしい。だから、守らせてほしい。


「でも……なんで白蘭は未来を選んだんだ?」


今まで黙っていた武が口を開いた。
この数年間で成長した武は、それでもいまだにファミリーのムードメーカーで。


「……さぁな。未来が一番進んでミルフィオーレと戦ってたからじゃねーのか」
「ミルフィオーレとの抗争には必ず僕だって痕跡を残してきたからね。僕が出した宣戦布告を買われただけのことだよ」
「……よ」


雪が呟く。その声は小さすぎて、何を言っているのか聞き取れなかった。
俯いていて表情がうかがえない。だけど、その肩は震えていた。


「やだ……嫌だよ……。嫌だよっ……!!」


雪は泣いていた。嗚咽を我慢しながら。
その瞳からこぼれる涙は重力のせいで頬を伝うことなく地面を濡らしていく。
綱吉がいなくなってから数日後泣かなくなっていた雪。やはりとは思っていたが、ずっと我慢していたのか。
それを見て、僕の心がずきりと痛んだ。


「も……やだ……仲間……失いたくないよぉっ……お願い……だから、未来まで……未来までいなくならないで……っ!」


その言葉に、聞いてるこっちまで泣きそうになってくる。
駄目だ。こっちが弱気になってしまっては。


「ごめん……ごめんね、雪。だけど……もし雪が僕の立場だったら、雪も絶対行くと思うな」


僕がそういうと、雪の肩がピクリと震えた。
そうでしょ、雪。知ってるよ。誰よりも優しい雪だから。
それに雪ならば、もしかしたら僕たちに何も言わず去っていたかもしれない。僕たちを必要以上に悲しませないために。僕たちに引き留めさせないために。


「ごめんね……僕がいなくなっても……悲しまないで。笑っていて……?」


雪の瞳からまた涙が流れ落ちる。
無理な相談だと知っていた。でも言わずにはいられなかった。


「やだぁ……ツナがいなくなって……未来までなんてっ……そんなの、あんまりだよっ……!!」
「っ……!」


雪の言葉に、その場の全員が息をのみ顔をゆがめる。僕も、鈍い痛みが心臓をわしづかみしてくるような苦しさを覚えて、思わず顔をしかめる。
たとえ、僕が綱吉は本当は仮死状態だと知っていても、悲しまずにはいられなかった。

10年後……僕等の未来は、白蘭……基、ミルフィオーレファミリーのせいでメチャクチャになっていた。
大量の死亡者に大量の行方不明者……おかげでボンゴレファミリーは壊滅寸前だとまで噂されるようになった。そこに嘘はない。
ボンゴレファミリーを支持するものはもちろんおらず、ボンゴレファミリー自身、残っているのは身内だけだ。


「10代目……っ」
「ツナ……」


皆は、綱吉が仮死状態だということを知らない。
僕だって、あの日偶然恭弥と綱吉が話している部屋の前を通りかかっていなければ、知らなかった。知った今も、本当に死んだとたまに錯覚してしまう。
……綱吉が去り際にに僕等に残した、あまりにも残酷な言葉のせいで。


『生きて』


その言葉は、今も僕等の胸に深く突き刺さっている。
……綱吉、ごめん。
僕は、早速君の約束を……その言葉を、きっと破ってしまう。

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