なんてのどかな昇天日和


「「ふあぁ……」」


屋上を照らす太陽は暑すぎず、じんわりと肌の中へと浸透していくような熱は眠りへと誘おうと必死だ。
近いうちにテストを控えているわけでもなく、ただひたすら先生の話を聞いて教科書をめくりノートを取り続けた退屈な午前中を終えてようやくのお昼休憩なのだ。そんな太陽の魔のような誘惑に抗えるほど、中学生というのは人間ができていない。
気の抜けるような欠伸を二人そろってしてしまうのも、無理はないだろう。


「あはは! 何欠伸でハモってんの?」
「欠伸でハモるって普通ないよね……」
「うっせぇ! こいつが真似したんだよ」
「別に真似したわけじゃねーよ! 退屈だから、自然と出ちまったんだ」


いつもの五人組は屋上で円を描くようにして座り、自らのお弁当や購買で手に入れたものを摘んでいる。
当然のように雪の隣を陣取っている未来は、雪と一緒に日陰に素肌を隠しながらお弁当のおかずを分け合っていた。


「おめーが断りもなく10代目の前で欠伸すんのは、10年早ぇ!」
「いいじゃんか、欠伸くらい!」
「……今度10代目の前で勝手に欠伸しやがったら、その口にこいつ突っ込んでやるからなぁ!」


そういって勢いをつけて立ち上がった獄寺はどこからともなくダイナマイトを取り出し、火をつけた。
だがそんな彼の行動も短気な性格も素行の悪さも、もはや日常茶飯事の一環である。ソーセージを咀嚼し飲み込んだ未来は面倒くさそうに口を開いた。


「隼人落ち着きなよーお行儀悪い。綱吉や雪や僕のお弁当に埃入っちゃうでしょー」
「そうだぜ。花火なんかつけたら火花が飯ん中入っちまう」
「は な び じゃ ね ぇ! ……ちっ、10代目のお昼ごはんを邪魔するわけには……雪にも罪はねぇし……未来はどうでもいいが、命拾いしたな、野球馬鹿!」
「待てよ今僕のことわざわざ言う必要あった? 世の中には言わなかったほうが穏便に済む言葉がいっぱいあるんだぜ?」
「はっテメェの飯がどうなろうが黒焦げになろうが知ったこっちゃねぇよ」
「もー獄寺くんまたー……」
「だ、だって10代目こいつ生意気なんスよ!」


親に言い訳をする子供のように瞬時に態度を変えて、獄寺は未来を指差す。だけど未来はすでにどこ吹く風で
お弁当をつついている。
綱吉に宥められて、ようやく獄寺も渋々ダイナマイトの火を消し、服の中へと隠した。

「ねぇ隼人。その服の下どうなってるの? どうやったらそんな大量のダイナマイトが納まるの?」
「うっせぇ黙ってろ!」
「それにしても本当に暇だね。何か面白いことないかなー」
「あるぞ」


また争いを始めそうな雰囲気をかき消そうと雪が何気なく発した言葉に、思いもよらない声が返事をする。
五人の視線はすぐに声がしたほうを向く。そしてそれは綱吉のすぐ後ろからであった。


「え、リボー……いだっ、いたたた!」
「ちゃおっす」
「痛い! 痛い! 刺さってる! 何だよその格好ー!」


ハリセンボン、としかいえないような着ぐるみだ。365度を棘で包まれような円形の着ぐるみを着たリボーンは、わざと針の先が綱吉に刺さるように彼のすぐ近くに立っている。
そんなリボーンの格好を見て、獄寺は首をかしげる。


「……ひょっとして、ビッグな栗で、ビックリとかってんじゃあ……」
「……寒っ」


思わず未来がぽつりと毒づいてしまい、リボーンは黙りこくってしまった。
誰も何も言わず、数秒間が流れる。そして綱吉はなんとなくそれを察し、にんまりと笑みを浮かべる。
普段振り回されてばっかりな綱吉は、少しでもリボーンの上に立てることが快感でしかないのだろう。


「当たった? 当たったんだな!?」
「いや、これはウニだ……」
「強引に言いつくろってる〜!」
「あはははっ! 面白ぇ!」
「これは満員電車で通勤する相手を尾行するときの、スパイ用カモフラージュスーツだ」
「そんなん着てたら、100人が100人振り返るぞ!?」
「トゲトゲが怖くて、誰も近寄らないから、ゆったり出来るぞ」
「……周りの視線が痛くて、ゆったり出来ないと思うけど」


リボーンは未来のセリフを綺麗に無視して続けた。
そのリボーンの発言は、薄く儚い綱吉の期待を粉々に砕いてしまうものだった。


「これはビアンキが小学生の時、家庭科の実習で作ってくれたんだぞ。だから、この針に刺されたら30秒で天国へ……」
「い!?」


リボーンの発言が終わるが早いか、ゆっくりと顔を青ざめさせていく綱吉。
その体は支えをなくし、力を失いばたりと床に倒れた。


「……あ、死んだ」
「10代目! 10代目ぇ〜!!」
「大丈夫、10分もすれば目が覚める。それまで、ツナを休ませとくいい場所を知ってるぞ」
「……ビアンキ姉は小学校から何をしでかしてるの……っていうかリボーンといつから関係持ってるの……そしてうちの義姉がすみません……」


ツッコミどころは満載だった。


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