無題


今日は、よく晴れた平凡な日。
そういえばランボが来たあの日も、こんな綺麗な空をしていたな、と雪はふと思い出した。

今回の始まりは、未来の一言である。


「……綱吉。君宛ての殺気がウザイ。殺していいよね」


不機嫌そうな顔つきで窓の外を指差し物騒な言葉を吐く未来。
実力はともかく、未来は気配や殺気などに対しては人一倍敏感なのだ。
素人とはいえ、何時間も自分のボスに殺気を向けられていては流石に気が立つだろう。


「えぇ、まさか学校まで来てるの!? ってか、あの子学校は!?」
「お、流石ツナ。未来を華麗にスルーした、ツナも未来に慣れてきた証拠だね!」
「緑中の制服なのな。あそこ進学校だぜ?」
「知り合いですか、10代目?」


わらわらと未来の周りに集まり、キャッチボールの出来てなさそうな会話をする5人組。
やがて視線はかの緑中の女子から逸れ、綱吉に向かう。


「もー……あの子さぁ……なんかリボーンのこと気に入っちゃったみたいで、リボーンがマフィアとかヒットマンとか言うのを、俺の教育問題のせいだと思ってるんだ……」
「あー、成程ー。それで、リボーンを悪い親から救わなきゃ! みたいな感じで?」


首を傾げる雪に、綱吉が重々しく頷く。
そしてすぐに頭を抱えて喚きだした。


「あー……どうしよー……。まだトラブルが……」


頭を抱え唸っている、そんな綱吉に近づく一つの影。
それを見て、未来と雪は顔を見合わせ、そして苦笑した。


「あー……綱吉。今はさ、あの女の子の心配するよりも……ねぇ?」
「うん……迫りくるソレの心配した方がいいよ……」

「沢田 綱吉。君と山本 武は今回の数学のテストが20点以下でした。落第点だった君達には、特別に宿題を与えます」
「あちゃ〜……」
「先生、僕はー?」
「あ、私も知りたい!」


興味津々に尋ねる二人の生徒を見て、般若を背負っていた教師はその般若を消し去る。
雪は言葉通り模範生の優等生だし、未来は素行不良はともかく、テストではそれなりの点数を叩きだしている。
途端に表情をニコニコと明るいものに変えた彼は、手に持っていたプリントを読み上げた。


「高城 未来は90点、北国 雪は87点だったよ……。ちなみに、獄寺 隼人は高城 未来と同点だね」
「はぁ、隼人真似してんじゃねぇよ」
「あ? 吹っ飛ばすぞ」
「あー、また二人に負けちゃったかー……」


未来は腹立たしげに、獄寺は興味なさそうに、雪は悔しそうに。
三者三様の反応をする中、未来が雪の吐いた言葉に気付く。


「雪はかなりすごいよ。来たばっかの時は知識がほぼゼロの状態だったのに今じゃ一般生徒よりも上なんだもん。僕はここら辺の範囲、とっくに……その、9代目の、守護者、にね、散々、扱かれ、て……」


どんどん青ざめていく未来を見て、雪は苦笑する。
確かに未来には以前、どれだけスパルタに中学三年間の知識を9代目を除く6人の守護者に扱かれたのかを雪は聞いていたのだ。


「とにかく、沢田! この提出は明日。全問正解で提出しなさい。山本もだぞ!」
「は……はい……」
「ははっ、ういっす!」



***



放課後の帰路を、綱吉は一人で歩く。
雪と未来は買い物で、獄寺は用事があるとかなんとか。
そんなこんなで、珍しく彼らは別行動なのだ。


「全問正解してないと落第って……」


一人憂鬱そうに呟く綱吉。
そんな彼のつぶやきを拾ったのか、山本がいつもの人懐こい笑みを浮かべ綱吉を誘う。


「よぉっ、ツナ! 今日さ、一緒に宿題やんね? 一人より二人の方が早ぇだろ?」
「あっ、するする!」
「だったらウチでやれ」


どこからともなく声が聞こえてきた。
いつも通りのことなので別段驚くこともなく、綱吉はただ声の主を探す。


「ここだぞ」


機械音を鳴らし、急に植木鉢の中からリボーンが出てくる。
最早何でもアリだ。


「うわあぁぁぁっ!」
「よっ!」
「チャオッス」


結局驚く綱吉を置いて、リボーンと山本は親しげに挨拶を交わす。


「な、何でお前が俺達の勉強の場所決めるんだよ!」
「俺はお前の家庭教師だからな」
「お?」


山本は不思議そうな顔をする。
即座にヤバイ、と気づいた綱吉は慌ててリボーンを黙らせようとした。


「お、おい!!」


が、綱吉は忘れていた。
山本が、ドのつく天然だということに。


「っははは! ツナ、お前いい家庭教師つけてんなー!」


豪快に笑い出した山本に、綱吉はこっそり胸を撫で下ろす。
隠し事をしている罪悪感はあるが、リボーンが異常だと気づかない山本も悪いのだ。


「ついでに、獄寺も呼んどいたからな」
「えぇ!? ……まぁ、助かるんだけど……。獄寺君……頭、いいから……」


でも用事があるんじゃなかったっけ?と綱吉は首を傾げながら、三人で仲良く肩を並べ歩き始めた。


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