お久しぶりです


その翌日、獄寺は一日中具合を悪そうにしていた。


「獄寺君、本当に大丈夫? 休んだら……」
「いえ、大丈夫ッス! 10代目……」


獄寺は無理して笑顔を作るが、顔色は変わらない。
作り笑いだというのがありありとみて取れ、それは逆に綱吉を心配させた。
しかもよく見れば、手がわずかに震えている。それが意味するのは、間違いなく恐怖。


「それで?」
「ん?」


金色の髪の毛をぱさりと払いながら、雪は未来の方向へと首を傾げ、上目で未来を見た。
話しかけられた未来は、雪は今日も可愛いなぁなんて思いながら首を傾げ返す。


「獄寺のあれ、どう考えても昨日の未来の発言が原因でしょ? 何をしたの?」
「人聞き悪いなぁ、まるで僕が隼人が苦しませてるみたいじゃん」


違うの? 雪はつい聞こうとしてしまったが、諦めて口をつぐんだ。
対して未来は楽しそうににまにまと相変わらず具合の悪そうな獄寺を見ている。悪趣味な笑いだ。
はぁ、と雪はため息をついてこれから起こるであろう出来事に備えて肩の力を抜いておいた。未来と一緒にいるとつくづく退屈さんとは疎遠になってしまう。


「……おい、未来。……いい加減に教えろよ……」
「えー? 何を?」
「しらばっくれんじゃねぇ! 昨日から聞いてるんだろうが!」
「あぁ……いつ連絡先を交換したのか。なんで連絡を取っているのか。俺のことはもう伝えてあるのか、だっけ」


ぎり、と歯を食いしばって獄寺は未来を睨みつける。
その表情が意味するのは間違いなく肯定だ。

今現在は休み時間なので、周りの生徒たちはそれぞれ自分の友人らとの会話にいそしみ騒いでいる。
誰も獄寺たちのことを気にかけはしないし、会話を盗み聞くこともない。
だがまるで誰かが機密情報を盗み聞きしようとしているのだといわんばかりに、未来は口の横に手を当てて内緒話のふりをする。


「……知りたい?」
「だっから昨日から聞いてんだろうが!!」


しびれを切らして大声をあげる獄寺だが、幸いほかの男子生徒の騒ぎ声に紛れて誰も大して気にも留めない。
だがそれは彼らのもう一人の友人、山本武の意識を向けるのには十分だったようだ。


「お、どうした獄寺? 何怒ってんだ?」


おまえいつも怒ってるよなー、と満開の笑みで山本は四人のほうへ近づく。


「山本、やっほー」
「おう! 北国にツナに高城!」
「僕のことは下の名前でいいって言ってんのに」
「私もー!」
「そうか? じゃあ雪に未来だな!」


そんな親しそうな会話の中、獄寺は一人で拳をわなわなと怒りに震わせる。


「おい野球馬鹿! こっちは大事な話してんだ! 割り込んでくんじゃねぇ!」
「お? なんだ大事な話って。俺も混ぜてくれよ」
「ほんっとにおめー馬鹿だな! ややこしくなるからあっち行ってろ!」
「まーまー、落ち着きなよ。質問には答えてあげるからさ」
「っ……!」


髪を振り乱さんばかりに獄寺が未来のほうを振り向く。そしてまるで未来に穴をあけようとでも言うかのように彼女を凝視した。


「一つ目……実はボンゴレに入った時点で、イタリアでばったり出くわしたことがありましてその時に連絡先を交換した。二つ目、連絡を取るのはただの近状報告で、みっ」


未来は一瞬で笑みを消し、会話を中断した。それは本当にぴたりと、まるで未来だけ時間停止の魔法でも食らったかのように止まったのだ。
その様子を見た雪の反応はとても速かった。彼女は一瞬だけ呼吸を止めてあたりを見渡す。
そして未来と雪は全く同時に廊下のほうへ振り向き、そしてそこへと通じる教室の扉を睨んだ。

そんな二人の反応に、綱吉は驚き、山本は目を見開き、そして獄寺は息をのんだ。


「ふ、二人とも……?」
「誰かくんのか?」
「……?」


残りの三人の中でもひときわ気配に敏感な獄寺もおそらく何かに気づいたのだろう、二人が睨んでいる扉へと目を向けて目を細めた。
そしてすぐに、綱吉と山本も感じることになる。
それは、綱吉にさえわかるほどの、生徒ではない、何やら異質な気配…

躊躇なく開かれる扉。


「あなたがボンゴレ10代目ね……」


ピンク色の長い髪はなびき、制服を着てない姿は視線を集めた。
きりりとしたその女性の瞳は、まっすぐに綱吉を睨んでいた。


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