始まり

誰も信じられなかった
それだけのことを、人間にされ続けてきた
まるでたらいまわしのように転々と住居を変え、そのたびに苦しい思いをしてきた

期待しなければいいと知っていたのに
期待を止めることはできなかった

此処ならもしかして
この人ならひょっとして

馬鹿みたいな連鎖
やがて壊れていった心を、
優しく拾ってくれたのは君だった――……




「ば……化け、もの……」
「くそ……くそぉっ!」


人も寄らない不気味な路地裏。
その中で、悲鳴と叫び声……
そして、何かの水音が絶え間なく響いていた。


「一人の……しかも、女に……!」
「まさか……ここまでとはっ……Azzuro Swindler……蒼い、ペテン師……!」
「あんたらが、弱いだけだよ……」


手に持っていた鋭すぎる刃物で、そいつらの体を真っ二つに断ち切る。
生暖かい液体が服にも顔にもかかって、気持ち悪い。
見えてはいけない臓器が覗いてるそいつの遺体を見たくなくて、目を逸らした。


「ひ、ひぃい!」


……あ、一人逃した。
まぁいいや。
これ以上僕に迷惑かけるようなことはしないだろうし、放っておいても……


「……寒っ」


ふるりと体を震わせる。
自分の体を抱きしめながら、今の自分の状況を確かめた。

質素な服装は血に浸かったかのように濡れていて、それが体をこれでもかというほど冷やしていた。
それでなくともイタリアの冬はかなり寒い。
これでは風邪を引いて熱でうなされてしまいそうだ。

だけどこんな血みどろな格好でどうする?どうすればいい?
街中を歩けば問答無用で補導されるだろうし、路地裏を歩くにも限界がある。
何より僕には家がないのだし、どうしようもない。
此処で野垂れ死にだけは嫌だな、とわずかに思った。

ふと、背後から砂利を踏む靴音がした。
今この現場を見られるのはやばい。
髪を振り乱す勢いで、僕は振り返りざま叫ぶ。


「誰だ!」
「君が……蒼いペテン師……」


そこにいたのは一人ではなかった。
手練れそうな黒い服を纏った男たち。
そんな男たちに囲まれるようにして、初老の爺さんはそこに立っていた。


「君が……高城 未来ちゃんだね……?」


こんな爺さんに知り合いはいない。
だけど自分の名は、自覚するほどよく知れ渡っている。
別に初対面に名前を呼ばれたことは、少なくなかった。
戸惑うことなく僕は頷く。


「……あんた、誰。 そいつら強そうだね、僕が戦っても勝てないから反抗はしないけど……いざとな」
「私はボンゴレファミリーの9代目(ノーノ)だよ」


僕の言葉が途中で遮られ、不快に顔を顰める。
だけどそれよりも、告げられた言葉が衝撃だった。


「ボンゴレ……って、あの……最強ファミリーの一が僕に何の用……?」
「ボンゴレに入る気はないかい?」


頷く気はなかった。
どうせまた同じ仕打ちをされると思っていたからだ。

それでも承諾した理由は、
きっと服の着替えが欲しかったからとか、
住む場所が欲しかったからとか、
そんな安易な理由だけではなかったはずだ。

ボンゴレは心地よかった。
一つの場所に2か月以上とどまったのは初めてだ。
そしてやがて、9代目からは一つの命が出された。


「日本に行け――……」


それ以外の詳しい情報は聞かされていない。
ただ僕は、日本にいるサワダ ツナヨシという少年に会えばいいらしかった。

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