やっと見つけた

「……ねぇ君」
「まだなんか用なの?」


うんざりとした顔で、渡された風紀一式を片手に未来は振り返る。
それに雲雀は顔色一つ変えずに、続けた。


「……君、最近草食動物たちと仲が良いみたいだね?」
「……草食動物? ここら辺ペットがいたなんて知らないけど」
「君がいつも一緒にいるあの三人組のことだよ」


その言葉に、未来は「あぁ」と呟く。
そりゃあ唐突に草食動物などと言われても、誰のことだか見当もつかないだろう。


「僕は、群れるやつらが嫌いだ」
「……群れるって……人がいっぱいいること?」
「そう。君も、風紀委員に入ったからには、群れないでよね」
「ちょっ……僕は入るなんて言ってないんだけどね?」
「その腕章を受け取った時点で同じことだよ」
「無理矢理押し付けてきたくせに!?」


だが雲雀はその反論に聞く耳を持たず、目を閉じる。
そして念を入れるように「とにかく僕の前では群れないで」と忠告する。
たとえ未来でも、つまり雲雀の前で群れたりすれば殺されるのだと一瞬で頭にインプットされる。
振り返り際、雲雀はさらに言葉をつづけた。


「それと」
「……まだ何か?」


いい加減鬱陶しい、という感情を隠しもせずに未来はドアノブに手をかけたまま振り返る。
そろそろ本気で帰りたいというか、一秒でも雲雀と一緒にいたくないのだろう。
こんな未来でも、まだ命は欲しいらしい。


「沢田 綱吉、獄寺 隼人、山本 武……この三人は最近風紀を乱しているらしいから、気を付け――」


雲雀の言葉が途中で止まる。
ドサリ、と音を立てて未来が持っていた風紀一式が床に落とされる。

その光景に、雲雀は不快気に眉を寄せるが、未来はそれどころではなかった。
目を見開き、震える口を開く。
紡ぎだされた言葉は、馬鹿みたいに揺らいでいた。


「……今、なんて?」
「だから、その三人が風紀を乱しているって……」
「その前! 獄寺の、名前……」


ぎゅぅっと拳を握りしめる。
何故気付かなかったのだろうと未来は自分で自分を責めた。

雲雀の口から言葉が紡ぎだされる。
まるでスローモーションのようだった。


「……獄寺、隼人……」


ハヤト。

そうだ、覚えてる。
彼女は紛れもなく覚えてる。

そう、呼んでいた。
彼女の義姉であるあの人はいつだって、彼のことを……


「ハヤト……ハヤ、ト……」


未来は扉を思いっきり開け放つ。
床に落とした風紀一式も置いて、すべてを忘れてただ無我夢中で駆けだした。

それを呼び止めることもせず、雲雀はただ未来がいなくなった扉の方をじっと見つめていた。
そしてため息をついて、渡した風紀一式を拾い上げる。

それすら知らずに、未来は息を切らせて走る。
廊下を走ることで沢山の生徒の視線を集めた。
だがそれすら未来は構わず、一直線に廊下を走り続ける。
今の彼女を止められるものは、誰もいないようだ。


「……ッ、どこにいるの」


焦燥に満ちた声。
教室の扉を思い切り開け放ち、その中に足を踏み入れる。
息を荒くする未来を見て、誰もが驚きの表情を浮かべた。


「獄寺は、どこにいるの!?」
「え、え、……さ、さっき沢田たちと帰った……けど……」


あまりの形相に、そこにいた男子生徒は怯える。
そんな彼を気遣う余裕もないらしい未来は、その言葉を聞く早いか、校門が見える教室の窓辺へと駆け寄る。
教室中の注目を集めながら、未来は構わず窓を開けた。

そして今まさに校門へ向かっている三人組を見つける。
そのうちの一人が……


「……隼人」


間違いない。
彼だ。


「ッ……隼人!」


叫ぶ。
届かない。

その声が彼に届くことはない。
彼が、振り返ることはない。

だけど未来は、必死だった。


「隼人! 隼人!!」


その声に、教室の真下にいた数人の生徒が顔をあげる。
そして驚きの表情で未来を見つめるが、そんなのは知ったことじゃない。
問題は、彼らには遠すぎて声が届かないことだった。

それでも、と未来は泣きそうに眉根を寄せる。
深く息を吸い込み、声を張り上げた。
喉が張り裂けそうなほどの絶叫が、未来の口から出た。


「お兄ちゃぁあああん!!!」



そしてあの人が、
振り向いた。

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