はたして愛に言葉はいるのだろうか



※色々原作から逸脱している。


グツグツと煮立っている鍋を混ぜながら、私はその中の黒さに自分の恋人を思い出す。
この鍋にある薬のように真っ黒で、甘みの「あ」の字もない彼は、本当に私のこと好きなのだろうか。
私は薬師で、向こうは学校の先生。
互いに仕事が忙しいし、寮監もしている彼には休みという日がない。
私も聖マンゴの薬師として毎日のように患者の薬を作り、呼び出しなんかあった日には夜中でも休みでも駆けつけなければいけない立場にいる。
もう3ヶ月も会ってないなと思いながら、完成した薬を瓶に詰めた。

「お疲れ様です。主任」
「おつかれ。君たちも早く帰りなさいね」
「はい!」

荷物をまとめながら考えるのは恋人のことで、手紙もそういえば最近来ないと気がついた。
素っ気ない恋人の手紙はやっぱり素っ気なくて、その短い手紙もくれなんて、私は愛されていないのだなと段々暗い思考へ落ちて行く。
告白したのも私からだし、彼はずっとリリーのことが好きだったし、恋人になってからもどこか余所余所しかったし、指輪の一つもプレゼントされたことがない。
唯一くれたダイアモンドが小さく光るネックレスさえ私がねだったものだ。
やっぱり、彼は私のことなんて好きじゃなんだ。

一度落ちた思考はどんどんどんどん暗闇へ落ちて行く。
底がない暗闇に私は絶望感を感じた。

「最近まともな休みが無くて弱ってるだけよ!ナマエ、落ち着きなさい」

自分にそう言い聞かせて家の前に姿現しをし、家の扉の鍵を開けようとするが、何故だか鍵が回らない。
そっとドアノブを回すと、小さく音を鳴らして扉が開いた。
私は朝の記憶を引っ張り出す。
たしかに鍵をかけたはずだ。

「えっ泥棒?」

ヴォルデモートがいなくなり、平和になったはずなのにと考えを巡らす。
もしかして残党かもしれない。
DADAが苦手だった私に太刀打ち出来るはずがない。
とりあえず誰かの元へ避難しようと杖を取り出す。

「リリーとジェームズはダメだよね。最近2人目が生まれて忙しそうだし。それにリーマスも新婚だし、ダメだ。今の時間、シリウスはきっと女の子と遊んでそうだし、ピーターは私以上にDADAが苦手だったよね」

色々友人達を思い浮かべては消して行く。
全員ダメだとなったところで、職場に戻ればいいのだと思い浮かぶ。
とりあえず病院に戻って、そこから魔法省に連絡しても遅くないだろう。
杖を振ろうとした瞬間ドアが開いた。

「きゃあ!!」

思いっきり杖を振る。
咄嗟に出た呪文により杖先から大量に出た水は、ドアの向こうの人物へ行くと思えば消えていく。
私は焦ってもう一度杖を振りかぶった。

「やめろナマエ。私だ」
「へ?」

杖を持つ腕を掴んだ男は私の恋人で、いつも深い眉間のシワをさらに深めながら、乱暴に私の手から杖を取り上げた。
突然現れた彼に私は何を言えばいいか分からずに、ただオロオロと視線を泳がす。
彼のため息に私は肩を揺らし、目頭に段々と涙が溜まって行く。
そんな私を見た彼はまた深くため息をつき、私の腕を掴み家の中に連れて行く。
朝とと変わらない我が家に少し安心した私はセブに連れてかれるままに廊下を進み、ソファへと座らされた。

「さて、ナマエ。私に言いたいことは?」
「えっ?久しぶり???」
「違うだろう」

私の横に座ったセブルスは腕を掴んだまま私を見る。
そのまっすぐな視線に私は顔をうつむかせた。
するとこっちを見ろと顔を掴まれて、顔を無理やり彼の方へ向けさせられる。

「なぜ私のところに真っ先に来ようとしなかった」

ぶつぶつと呟いていたことが彼には聞こえていたみたいで、不機嫌そう(これはいつもだけど)に私のほおを掴んだまま、なぜだともう一度私に言った。

「だって、ホグワーツは姿表しできないじゃん」

口から出た拗ねたような言葉に自分でも驚きながら、私は彼の手をはたき落とす。

「だからと言って、最初から選択肢に入っていないのはどういうことだ!」

語尾を荒げた彼に、私もどうしてか頭に来てしまい、言い返そうと立ち上がる。

「最初にその原因を作ったのはセブルスじゃない!大体、なんで急に家に来たの?鍵だって開けっ放しだし、そんなの泥棒が入ったって思うに決まってるよ!」
「...」

目を逸らした彼に、また目に涙が溜まっていく
きっと彼は別れ話でもしに来たのだろう。
出ないと彼がいきなり私の前に現れるはずないからだ。

また暗闇が心を占めていく。

「もういいよ」

彼から別れを告げられるくらいならば、私から離れよう。

「疲れた」

そう私は疲れたのだ。
彼を愛することに疲れてしまった。

「セブルスは私のこと、本当は好きじゃないんでしょ?」

そういえば一度も好きと言われてないな。
考えないようにしていた事実に、私は自分がいかに馬鹿であったかを思い知る。
もう付き合って5年も経つはずなのに、彼からの好きだの言葉も愛しているの言葉も1つもない。

「別れよ」

俯いた彼の表情は見えないけれど、きっと私と別れられてせいせいしているのだろう。
自分で言って悲しくなってくる。

「今日はもう遅いから、泊まっていきなよ。私は誰かの家に泊まってくるから」

鍵はポストに返しといてねと言い切って、私は彼が握ったままだった杖を奪い返す。
バイバイと言った時にちらりと見えた彼の顔がなんだか泣きそうに見えたけど、それに知らないふりをして、私は姿表しをした。

「おい!ナマエどうした!?」
「ナマエさん?」

声は震えていたけれど、私の杖は私を友人の元まで連れて行ってくれたみたいだ。
私の友人、シリウスとその弟であるレギュラスを見た瞬間、私は今度こそ大声で泣いた。