起きたとき、チアキはベットで寝かされていた。
マダム・ポンフリーという校医に連れられ、地下牢の教室に向かう。
ここにスリザリンの寮監であるスネイプがいるのだという。


「それじゃあスネイプ、あとは任せましたよ」
「承知した」


スネイプは長い黒髪をなびかせ、漆黒のローブを着ている。
その様は育ちすぎたコウモリのようだ。
歩幅の大きいスネイプに合わせ、速足でその後ろをついていく。


「ここが寮だ。あとは中にいる監督生に聞け」
「ありがとうございました」


来た時と同じようにスタスタとスネイプは帰っていく。
談話室だという広い部屋の窓には、空ではなく水が写っている。
近くの湖の生物だろうか、大きなイカが窓のすぐ外を泳ぐのが見えた。


「あなたがチアキね!私はジェマ・ファーレンよ。スリザリンの監督生なの。あなたが倒れた時には驚いたわ。たまにいるのよね。緊張で倒れちゃう子」


スリザリンの説明をしたあとにジェマは、チアキを部屋まで案内した。
あとは同室の子に聞いてねと言い残し、すぐに去っていったジェマにお礼を言うとチョコレートを渡される。
思いっきり子ども扱いである。

部屋に入ると一人の少女がベットサイドで本を読んでいた。
チアキが声をかける前にこちらに気づいて、本を閉じた。


「倒れた子ね。同室だとは思わなかったわ大丈夫?」
「ありがとう。えっと」
「ダフネよ。よろしく」


他の子はまだ談話室なのよとダフネ。
感じの良い子が同室で安心したチアキは、あてがわれたベットに寝転んだ。
装飾が施されたランタンが、その豪華さに似合わない優しい光で二人を照らす。
窓に湖の水が打ち寄せる音を聞きながら、チアキはそっと目を閉じた。



「ダフネ!ダフネ!」
「うるさいわよパンジー。寝てる子だっているのよ」
「だってあのドラコが私のこと覚えていたの!」
「そりゃパーティであんなに熱心に話しかけられたらトロールでも覚えられるわ!」


ダフネを呼ぶ金切り声で目が覚めた。
時計を見ると少ししか経っていないようだが、少しの間で寝てしまうほど疲れていたのかと驚く。

パンジーは興奮したようにダフネに喋りかけていたが、チアキが起きる様子を見て、うるさくしてごめんなさいと言う。
しかし、立ち上がったチアキの姿を見た瞬間みるみるうちに顔を真っ赤にさせ、詰め寄ってくる。
迫力のあるパンジーの姿にチアキはたじろいた。


「あなたもしかしてドラコが探してる東洋人!?そんなこんな子だなんて!」
「ドラコって誰?」
「しらばっくれないでよ!どうやってドラコに取り入ったの!?」
「パンジー少し落ち着いたらどう?」


ダフネがパンジーを落ち着かせようと声をかける。
しかし、それを無視してパンジーはチアキに怒声を浴びせた。
チアキは覚えのないことを言われ最初は驚いていたが、次々と言われる悪口に我慢ならなくなって立ち上がった。


「なんで私が言われもないことでそんなに悪口を言われなきゃいけないわけ?」
「あなたがドラコに取り入るから悪いのよ!私だってまだ名前も呼ばれてないのに!」
「そりゃあなたみたいな人に言い寄られたら名前を覚える気にもなれないでしょ!第一私はドラコって子を知らないのに」
「なんですって!!」


ダフネが小さくチアキってばやるわねと言う声を聞いたが、チアキはそれを無視して一歩前に出る。
その迫力にパンジーは思わず後ずさりするが、威勢のいい声を出すのは忘れない。
だが、冷静に正論を言うチアキを前にどんどん声が小さくなっていった。


「確証もないのに人に詰め寄るのどうかと思うけど」
「だってスリザリンの東洋人の1年生はあなただけだわ!」
「ドラコっていうのが探している子がスリザリンとは限らないでしょ」
「ドラコが探してるんだもの、スリザリンに決まってるわ!」
「なにその偏見」
「ドラコは誇り高い純血よ!当たり前じゃない」
「二人ともストップ!これ以上言い争ってもしょうがないわ」


言い合いが終結したところで、ダフネが二人に声をかける。
ドラコに会いに行けば探してる子がチアキかどうかも分かるでしょというダフネの提案に乗り、三人で談話室に行き、ドラコの取り巻きだというクラッブとゴイルに声をかけた。


「マルフォイはどこ?」
「医務室に行ったみたいだけど、多分もうすぐ帰ってくると思うよ」


クラッブとゴイルはテーブルいっぱいにお菓子を広げ、ばくばくと食べている。
自己紹介をしながらも手からお菓子を離さない。
その様子を見てチアキは夕飯を食べ損ねたことを思い出し、お腹が鳴った。


「チアキ食べる?」
「いいの?」


クラッブに蛙チョコレートをもらい、逃げないうちに一口かじる。
甘いチョコレートが空腹のチアキにはご馳走であった。


「それじゃあチアキ。私たち先に帰るわ」
「ダフネ!」
「パンジー....あなたの同室の子ももう寝てるんでしょ。私たちももう寝ましょう。チアキ、あんまり遅くならないようにね」
「わかったおやすみ」
「おやすみなさい」


寝に行ってしまったダフネとパンジーに手を振る。
もう二度とパンジーには会いたくないが、同じ寮である以上、関わるしかないだろう。
チョコレートを齧りながらチアキはため息をついた。


「チアキって、ドラコが探してる東洋人なの?」
「私そのドラコって人を知らないんだけど」
「ドラコ・マルフォイを知らないんだ」
「パンジーがドラコにお熱っていうのはわかった」
「言えてる」


三人でお菓子を食べながら、たわいのない話をする。
チアキもお菓子が大好きだが、クラッブとゴイルには敵わないなというくらい、その二人はよく食べる。
チアキが蛙チョコを2つ食べ終わってからも二人は食べ続けている。
この子たちの将来は大丈夫かとチアキは考えてしまった。

どんどんお菓子を勧めてくる声を断り、チアキはソファの上で膝に顔を埋めた。
疲れているせいか段々意識が遠のいてくる。


「クラッブ、ゴイル。ここにいたのか」
「あっドラコ。君が探してる東洋人が来たよ。日本人だって」
「ダメだよゴイル。チアキってば寝そうだよ」


誰かがクラッブとゴイルの声をかけるのを聞いたが、チアキはもう限界だった。
眠たすぎてもうここで寝ちゃいたいと思うくらいには眠い。


「お前らは先に部屋に戻ってろ」
「でもチアキが...」
「俺が起こしておいてやる」


チアキおやすみ、ちゃんとベッドに寝るんだよという声に軽く手を振り、そこでチアキは完全にねむってしまった。