ハリーとロンの行方が分からずにホグワーツのあちこちを見回ったチアキだが、だれも見つからない。
トロールさえもだ。
そのうちに先生たちの集団とかち合ってしまった。


「Ms.キリタニ、あなたここで何をしているのです」
「マクゴナガル先生...あのトイレへ行きたくて」
「ほかの寮生たちと離れてはダメと言ったでしょう。本当は寮まで連れて行ってあげたいけれど、あなた一人だと心配だわ、一緒にいらっしゃい」


先生の後ろには、校長など先生たちが勢ぞろいだ。
その中に混じり、一緒に歩き出す。
そうこうしているうちに誰かの悲鳴が聞こえてくる。
あれは絶対にハーマイオニーの声だとチアキは確信し、先生の集団から飛び出し走り出した。


「待ちなさい!」


チアキにはマクゴナガルの声は聞こえていなかった。
先生たちも大急ぎで叫び声のする方向へ向かった。



「ハーマイオニー!」
「チアキ!?」


叫び声の聞こえた場所ー女子トイレへ飛び込むとそこにはハーマイオニーだけでなく、ハリーもロンもそして倒れているトロールの姿があった。
びっくりしてトイレの入り口で立ち止まるチアキにハーマイオニーが抱きつきにいった。


「チアキ!」
「ハーマイオニー.....これどうしたの?」


ハーマイオニーがチアキへ説明しようと口を開く前にマクゴナガルがトイレへ到着した。
そしてトイレの酷い有り様を見て声を荒げる。
その声に怒られていないチアキも萎縮した。

結局、ハーマイオニーが減点されたが、ハリーとロンの勇気をたたえられて点が与えられた。


「スネイプ先生、Ms.キリタニを寮へ」
「分かりました」


チアキはスネイプに連れられ、トイレを出た。
結局のところ、ハーマイオニーは見つかったが、トロールに襲われていたし、ハリーとロンはそれを助けたし、チアキには何がなんだか分からなかった。
しかもハーマイオニーとはゆっくり話もできなかった。

スネイプの横でチアキは肩を落とし、ため息をついて下を向く。
するとスネイプが足を引きずって歩いているのがわかった。


「スネイプ先生?」
「なんだ」
「足怪我してません?」
「君が気にすることではない」


いいから早く行くぞとばかりに睨んでくるスネイプを睨み返す。
よくよく見ると、血も出てている。
このままほっといたら化膿する可能性があると判断したチアキは先生に医務室へ行くように促すが聞く耳持たない。


「今すぐ医務室へ行くべきです!」
「大丈夫だ」
「大丈夫じゃないです!そんな怪我してるのにほっとけません!」


今日、チアキの周りで起こったことはチアキにとってイラつくことばかりであった。
そのために気が立っていたのだ。
チアキのいきり立つ様子に段々とスネイプが押されていく。


「わかった」


ついにチアキにスネイプが根負けした。
二人で医務室へ向かう。
しかし、そこにはマダム・ポンフリーの姿はなかった。


「私が手当てしますね、包帯とか取ってくるんで座って待っててください」
「Ms.キリタニ....」
「怪我人なんですから座ってください!」


立ち上がったままのスネイプを一括すると、救急箱を探し、棚を漁る。
幸いにもすぐにそれは見つかり、大人しく椅子に座っているスネイプの元へ走る。
足元へ座り込んだチアキはズボンの裾をめくり傷を確認する。
白くて細いその足には大きな咬み傷があり、チアキは痛そうと呟いた。
魔法で傷口を綺麗にし、薬を塗って包帯を巻く。
スネイプはその間、顔をしかめたりしたものの、声は出さなかった。


「よしこれで大丈夫ですね」
「...手際がいいな」
「兄がよく怪我をしていたもので」


私が手当て係だったんですとチアキはスネイプを見上げ笑った。
スネイプはたじろぎ、チアキの目を見たまま固まった。
チアキもスネイプの瞳を見て驚く。
常に真っ黒なローブを羽織り、真っ黒な髪色をしているが、瞳まで真っ黒だとは思わなかったのだ。


「帰るぞ」


硬直が解かれたスネイプはそれだけ言うと立ち上がり、すぐに歩き出した。
チアキも急いでそれを追いかける。
そして先ほどよりも足を引きずっていないスネイプの横に並んであるきだした。


「スネイプ先生の瞳の色は真っ黒だから夜の色ですね!」
「日本人の瞳の色にも黒は多いのでは」
「先生みたいに綺麗な黒色じゃないですよ。あとは茶色の瞳もよく見ますね。けど私は先祖返りなのか元々暗い緑色なのに、夜になると明るい緑色に変わるんですよね」
「そうか」
「不思議です」


一番最初に寮へ案内された時と違い、チアキとスネイプはおしゃべりをした。
言葉数は少なかったが、ゆっくりとした時間が二人の間に流れていた。


寮へ着き、チアキはおやすみなさいと挨拶をした。
そんなチアキをスネイプはじっと見つめるため、チアキは落ち着きなく肩を揺らす。
自分が何か今変なことを言ったのか不安になった。


「助かった」
「えっ」
「一人では丁寧に手当てをしなかっただろう」


スネイプは手をチアキの頭に乗せてポンポンと何回か叩く。
チアキはびっくりしてスネイプを見上げた。
その様子を見てスネイプは薄く笑い、すぐさま立ち去って行く。


スネイプがいなくなった後、チアキは自分の部屋まで戻り、ベットへ倒れこむ。
すぐさまダフネから声がかかるが、チアキは固まったままだった。


「チアキ!ハーマイオニーは大丈夫だったの!?」
「えっあっ!大丈夫!大丈夫!」
「チアキ何か変よ?あなたの方が心配になってくるわ」
「ハーマイオニーも無事だったし、私も大丈夫」
「明日ちゃんと話しなさいよ!」


スネイプのあんな様子は初めて見たが、今夜起こったことは誰にも言えないであろう。
トロールを倒したことよりもチアキにとってはあのスネイプの方が衝撃的であった。


シャワーを浴びた後ベットへ潜り込み、自分の頭を触る。
慣れてなさそうに頭を撫でたスネイプの手は、想像よりも暖かかった。