白石妹の受難四天宝寺テニス部の土曜日練習。
珍しく一日練習があるということで弁当が必須だった。
しかし四天宝寺の聖書と呼ばれる白石蔵ノ助はどうやら弁当を忘れたようだ。
当の本人はショックを受けるどころか鼻歌交じりにそわそわしている。
そしてどこか嬉しそうだ。
「んーー♪」
「なんや白石、弁当忘れたのにえらい機嫌良いやん。」
「!!……なんや謙也か。」
春が来た。という顔で振り返った白石だが声の主が謙也だとわかると絶望した顔になった。
「俺で悪かったなぁ。弁当忘れるとか致命的やん。昼からの練習どないするん?耐えれるんか?」
「平気や。俺わざと弁当忘れてきたんやし。」
「は?」
「せやから俺は待っとんねん。」
「誰を?」
「もちろん――「くぉらー!!蔵ノ介ぇ!!」
後方より女子の声が、
何事かと振り返ってみるとそこには白石の妹、葉波が居た。
「待っとったでー!!今日も相変わらずかわええなぁ。流石俺の葉波や!!
俺むっちゃ寂しかったんやでぇ!!俺が朝起きてもまだ寝とるし、もう寝坊助さんやなぁ。俺が家出るときは行ってらっしゃいのちゅーが必要ねんで!!
部屋にはカギがかかっとって開けれんし。
あ、せや!いつの間にカギの種類変えとんねん!!ピッキング出来へんかったやん!!」
「うざい、蔵ノ介。
あ、謙也先輩お久しぶりです。」
「おん、久しぶりやなぁ。同じ学校なのにあんま会わんなぁ。」
「変な奴には絡まれへんかったか?あ、俺の弁当重かったやろ。ほんまゴメンなぁ、俺が弁当忘れて行ったせいで…。」
「現在進行形で絡まれとるわ。そして詫びて死ね、お前がわざと弁当忘れていったこと知っとるからな。
当たり前ですやん。謙也先輩、いつも蔵ノ介と行動一緒やないですか。私、学校で蔵ノ介と出くわさないように避けてますもん。」
「…そうやったなホンマ白石のこと嫌っとるんやな……。」
「でも持って来てくれたことに感謝やぁ!!しかもタイミングもバッチリや!!」
「私の自由時間を返せ。
今更何を言ってるんですか!!私は平凡かつ平和に過ごしたいんですわ!!なのに蔵之介は目立つし、うざいし、なんなんですかエクスタシーって!!存在を否定しますよ私!!」
「あぁ…。」
庇いようがないと両手を上げて降参する謙也。
「葉波愛しとるでぇ!!!でも家みたいにくーちゃんって呼んでくれたら嬉しいわ。」
「うざい、あっち行っとけ私は謙也先輩と話しとるんや。」
「罵られてもエクスタシー!!」
「キモい!!!!お前は向こうで弁当食っとけ!」
弁当を投げつけ白石を蹴飛ばし何事もなかったように会話を続ける。
「そういや葉波ちゃん、部活入っとるやろ。今日は練習無いんか?」
「有ります。でも始まるまで後1時間はあるんです。」
「さよか…だったらテニス部見学でもしていくか?」
「…暇やしそうさせていただきます。」
始まるまで見学をすることになった。
これから練習試合が始まるようだ。
白石は謙也をだしにカッコいいところを見せようと頑張るが、そんなところは見ようとせず、クラスメイトの金太郎の試合を見ていた。
「金ちゃんかっこええでぇ!!」
「おー葉波!!わいの雄姿見とってくれたんかぁ!!」
「当たり前やん!!せっかく見学できるんやから友達を見んで何を見ればええねん。」
「そんなん俺の姿見たってやぁ!!」
謙也との試合を終わらせてきた白石が会話に乱入。
「うわ、視界に変なん入れてもうた!!金ちゃん助けてぇ!!」
「葉波はわいが助けたる!!」
「金ちゃん愛しとるー!!」
「…愛しとる、やと…金ちゃん……こっち来ぃ、決闘や。」
「お?試合するんか?今回こそ白石に勝つでぇ!!」
「どっちが愛されるかをかけて勝負や!!」
「いや、お前が勝っても私はお前を愛することは一切無いからな。」
そして始まった白石と金太郎の試合。
レベルの高いラリーが続き謙也とともに見入る。
「謙也さん金ちゃんのあの技なんて言うんですか!?」
「『超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐』や威力はものごっついで。」
「へー…金ちゃんかっこかわいー!!」
さっきから金太郎関連のことしか口に出していない。
この発言を聞き取ってしまった白石は試合を一時中断して金太郎に向かって足を進める。
「金・太・郎。」
「ん?なんや?」
「さっきから俺の妹と目の前でイチャイチャしよってからに、そんなに金ちゃんは死にたいん?」
腕に巻いてある包帯をシュルシュルと解いていく白石。
金太郎にとっては恐怖でしかない。
「いやや!!毒手は堪忍してぇや!!!」
物凄い勢いで怯えだす。
その様子についていけない人が一人。
「謙也先輩…どういうことなんですか?あれ…。」
「あー、話せば長くなるんやけどな。金ちゃんは見ての通りゴンタクレで白石の包帯の下は毒手やって言って脅したりして制御しとんや。」
「………言い分には納得したんですけど…今回の毒手の使用は理不尽なものですよね?」
「…せやなぁ。」
恐怖で涙目になった金太郎を眺め気が収まったのか試合を続行する。
しかし金太郎は元の様にコートを走り回らない。白石が怖くて仕方ないのだろう。
「……金ちゃんのあの大技、ぶち当たったら痛そうやなぁ…。」
「…あの葉波さん?なにする気や?」
謙也の少し青ざめている顔をチラ見してにやりと笑う。
「金ちゃーん!!このラリーで超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐を打ってくれたらたこ焼き奢っちゃるでー!!」
「っ!?ホンマか?」
「ホンマや!!」
そして息をもう一度大きく吸い込む。
「――っくーちゃーん!!愛しとるでぇ(棒読み) 嘘やけど。」
「な!?」
言われたかった言葉をいきなり叫ばれて白石は動きを止める。
「なんや!!めっちゃ恥ずかしいやん。そんな台詞二人っきりのとき言ってや。もうこのオマセさん!!」
体をくねくねさせて恥ずかしがる白石。
かなりの勢いで目の毒だ。
「金ちゃん、殺れ。」
「よっしゃぁ!!超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐ぃぃ!!!!」
金太郎から放たれた打球は吸い込まれるように白石の体にヒットした。
華麗に気絶する白石。
「んーっエキサイティング(刺激的)。」
流石白石の妹、決め台詞は持っていた。
「打ったでぇ!!約束通りたこ焼き奢ってやぁ!!」
「おん!!任せといて!!」
「流石に白石が可哀想に思えるわ…。」
「同情したら負けですわ。
……謙也先輩やから言いますけど、私蔵之介のこと好きな時もありますよ。」
「へ?でも、さっき…。」
「せやから、今の蔵之介は嫌いですよ。やけど、一生懸命にテニスに打ち込む姿だけは好きですよ?」
「そうなんか…。」
「でも!!そんな姿を見る機会が無いんですよ!!真摯にテニスに打ち込む蔵之介の姿を見る時が!!
あのシスコン。私の気配を四六時中追ってるんやないかって疑うぐらい私がどんなに隠れて蔵之介の姿を見ようとしても見つかるんです!!
なんかもうキモいんです!!生理的に受け付けないんです!!あの人人間なんですか?なんで私の兄なんですか!!それで私の事愛してるとか近親相姦なんですか!?なんであの人生きてるんですか!!」
「……やっぱ嫌いなんやん…。」
「…そうですね。やっぱ嫌いですわ。」
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――あとがき――
2011,08拍手
白石のせいで平凡な生活が送れいない妹の話でした。
立ち位置的には「不二弟」みたいな。
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