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「あぁ、なんで知ってるかって顔してるね。イップスの状態でごめんだけどそのまま話を聞いてもらうよ。離してる途中に君に殴りかかられたら話にならないからね。
俺、テニス部部長でしょう?だから各校のテニス部部長とは時々会っているんだ。いや、時々って言ってもまだ二回程度なんだけどね。だって部長になりたてだから。
まぁ、そんなことは置いといて、君の前の学校…青学でしょ。この学校の生徒にはそれを伏せてあるらしいけど、俺は青学テニス部部長の手塚から色々聞いたよ。
彼は思い悩んでいたよ。君は元気にしているだろうかって君が変な異名で呼ばれてることも知ってたよ。手塚は、だから余計に心配してた。怪我するんじゃないかって、
俺はさー、その時はまだ君の事知らなかったんだよねー。立海ってマンモス校でしょ?だから手塚の話を適当に聞いて、それから君を見かけたよ。そしたらびっくり、話に聞いた通りじゃないか。
こっちに流れてる噂も全くの嘘で、知った時にはとてもおかしかったよ。そう、外見もそうだけど、中身もそうだ。噂なんて全くあてにならないね。
立海で君と関わった人、仁王、真田、柳、みんなテニス部。もう笑っちゃうよね。こんなにピンポイントにテニス部に関わってるなんて、
あ、これは偶然だから。別にテニス部総出で君に関わってどうこうしようってことは無いから安心して?純粋に君は君で友好関係を築けばいいよ。俺としてもとても微笑ましい情景が広がって楽しいよ。
さて、ここでひとつ俺からお願いしよう。俺と友達になってよ。」
最後の最後で再び奇奇怪怪な言葉を発してくれた幸村。
友哉は真剣に聞いていた話の内容を脳内で吹っ飛ばされた感じに陥った。
友達って、おい…。
「お前…何、考えてんだよ……?」
「別に何も考えてないよ。君みたいなのが友達に居れば楽しいだろうなぁって思って!」
「友達にイップスかけるって…どういう事だよ?」
「え?友達になってくれるのかい?」
「あー、もうなってやんよ。なります。だからさっさと解きやがれ、もうさっきから意識ははっきりしてんのに体だけがピクリとも動かなくて気持ちワリィんだよ。」
「ありがとう!じゃぁ、解くねー。」
幸村が宣言した通り友哉にかけてあったイップスを解き、それから友哉は体をほぐす様に上体を起こした。
「あー、疲れた。ホント意味分かんねぇ。」
「フフフ、ごめんね?一回イップスの恐怖を味わっておけば俺に逆らおうとはしないでしょ?」
「……………。」
「冗談だよ。ホラ、引き留めてゴメンって帰ってもいいよ?」
「じゃぁ…帰るけどよ……。」
帰ってもいいとお許しが出たところで友哉は立ち上がりドアの方を向いた。
「うん、また明日ね?」
「あ…そうだ。
その真実、立海には流さない様にしれくれねぇか?」
「それは、何故?」
「幼馴染は、俺が…殺したも同然だから…同情の目を向けられるよりは、今の方が…ましだから。」
幸村に対して背を向けているため幸村には表情が分らない。
しかし、喜や楽ではない事は分かる口調である。
何て答えればいいのだろうと幸村が考えて放った言葉が、
「……中二病だ!!」
である。なんという雰囲気クラッシャー。
「ちげーよ!つーか俺達今中二だろうが!!チッ、あばよ!!」
「はーい、黙っておいてあげるねー。バイバーイ。」
友哉は荒々しく扉を開けて幸村の部屋、そして家から出て行った。
友哉にとっても幸村にとってもとても内容のあるものだったと思う。
「…ハァ、手塚ぁ…友哉ってなんでもため込む人だね。
俺にはため込んでるモノをかきだすなんて器用なことできないよ。
それこそ幼馴染君に頼むしかないんじゃないかなぁ。…あぁ、けど安否不明か…全く、幼馴染の親はもう少し考えなよ。君が思ってるほど彼は強く無いようだよ。」
幸村は実際には手塚に友哉の事をよろしく頼む、と言われていた。
よろしく頼むって言われてもどうすればいいのか。
心のケアだなんてこと、ただの子供に出来る訳がないじゃないか。
それにああ言った子は人との間に壁を作る。
作って自分を守る。
外から自分を守っているくせに、内から自分を傷つける。
考えなくてもいい、加害妄想でもいうのだろうか?そんなものを考えて、
まぁ、彼の場合はその考えてため込んだストレスを無意識に喧嘩の中で発散している様だけど、
それでも柵がある。
彼の友達は彼の揮う暴力が嫌いだったらしいじゃないか。
彼は力を持っていたのに、守れなかったと、手塚に証言している。
確かに彼は関東をしめてる番長と言っても過言ではいし、実際しめてるわけだけど、
だからと言って人一人ピンポイントに救えるわけないだろう。
気付くことが出来なかったって、君よりも頭のいい幼馴染が隠そうとしたら君が真実にたどり着けるわけがないだろう。
関東の頭だからとか、
幼馴染を傷付けた…いや、彼は自分が殺したと考えているのだろう。幼馴染を殺してしまったとか、
そんな肩書の前に君は守本友哉だろう。
立海大付属中学二年在学の、ただの中学生だろう。
それから、
「俺の友達、…フフっ。」
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