こそこそっと一般よりも大きな図体を必死で壁に隠して、新渡戸会長を見つめる人物がいた。

「ああ、今日も格好いい…ッ」

軽く反りこみの入った薄い眉、いくつものピアスがはめ込まれた耳、これでもかというほど色を抜いた金髪、ちゃらちゃらと胸元を飾るシルバーアクセサリー。はた目から見たら彼は不良にしか映らないだろう、というか実際不良だ、いや不良だった。
彼は新渡戸会長によって潰されたこの学園の不良グループのリーダーである。それが何でこんなに熱視線を送っているのかというと答えは簡単、会長に惚れているからだ。

始まりは桜の青々とした葉が眩しい5月、入学式以来、どうにも生意気な一年がいると何人もの舎弟がボロボロになって帰って来ては目に悔し涙を浮かべて口をそろえてそう言う。10人で袋にしようとしても勝てなかったというのだから情けない。
どうしたものかと思ったが、そこまで強い相手ならば興味もわく。好奇心8割、仇討ち1割と面子のため1割というリーダーらしからぬ理由で彼はその新入生とサシの勝負を申し込んだ。
彼はリーダーと言っても適当にこの学校に入って気に入らない人々を適当につぶしてきたら勝手にそんな肩書が付いてただけだから情熱がないのも仕方無いだろう。

ちなみに勝負の結果だけを言うならば彼は負けた。今までの喧嘩とは違う、実践的な古武術の前に手も足も出せなかったのである。更に加えてもう一つ、結果は変わらなかっただろうが、理由を付け足すとしたら、彼はその新入生に一目ぼれしてしまったのだった。

あれから約一年ちょっと、今では立派な生徒会長になった新渡戸を毎日見つめ続ける日々。そんな彼の姿は最初不審がられ何度か親衛隊に注意されたのだが、視線の理由を知れば彼らとお茶をする機会が増えた。会長が好きな人に悪い人はいないというのが持論らしい。
そんなこんなで今日も今日とて視線を送り続ける彼に声を掛ける人物が一人。

「おっはー、また会長見てんのか」
「うるせえ、俺の毎日の楽しみを邪魔するな」

声をかけてきたのは副風紀委員長である。ちなみに中学から知り合いであるため、物怖じせず話しかけてくる貴重な生徒の一人である。

「熱心だな、妬ける」
「言ってろ」

毎日毎日、会長に送る熱視線と同じくらいの熱視線を受けていることに彼は気づかない。






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