それはキッドと名前と久し振りに上陸した島の観光をしていた時の事だった。
観光、と言ってもただ単にキッドが気ままに歩くのに付き合うだけと言う観光とはほど遠い物だった。
「全く、何故私がお前等に付き合わなければいけないのか」
治安が悪くは無い、寧ろ良いと言える街で特に問題も無く歩いていると俺の隣で仏頂面で歩いて居た名前が不貞不貞しくそう吐き捨てた。
声の不機嫌さ加減に思わず苦笑いが零れる。
まあ、それも致し方ないのだろう。
何故ならキッドは上陸する際には必ず名前を連れて船を出て行く。
かと言って何をする訳でも無くただ街をフラフラした後、一暴れするか酒を飲んで帰ってくるかだ。
しかし、それだけしか無いというのに名前はキッドの誘い(一種の我が儘になっているが)に付き合っていた。
なんだかんだ言ってコイツは優しいと言う認識が俺達にはある。
どんっ
ふと隣から何かがぶつかった様な音がした。
隣の名前を見ると眉を顰め自分の足下を見下ろしている。
何かと思い視線を辿ればそこにはアイスを持った小さな男の子が転んでいた。
しかし手に持っているアイスは既にコーンの部分しか無く、肝心のアイスの部分が名前のブーツにぴったりくっついてしまっている。
男の子はぶつかった反動からなのかアイスを失った衝撃からなのかもしくは両方からなのか涙を浮かべた。
少し遠くの方では男の子の母らしき女が顔面蒼白にし、男の子に駆け寄った。
「すっすいません…!息子の不注意で…!!どうか、どうか命だけは…!」
「……」
男の子の母親は泣きかけている男の子を抱きしめながらただ平謝りする。
無理もないだろう。
名前の前を歩いていたのは懸賞首でもあるキッドと、横にいるのは同じく懸賞首の俺だ。
名前も俺達の仲間と思われるのが普通だろう。
しかしそんな二人を無表情に見下ろす名前は徐にポケットに手を突っ込みそこから何か取り出ししゃがんでから男の子に差し出した。
「すまんな、私の不注意でアイスをダメにしてしまった。全く申し訳ない。」
眉を下げ苦笑いする彼女の手には簡単にアイスの一つや二つ買えるであろう金額が乗っかっていた。
それを見て母親は益々顔を青くする。
「そ、そんな…!頂けません!」
「いや、良いんだ。私はアイスなんて食べないからな。」
少々趣旨のずれている名前の返答に困惑しつつ男の子は名前からお金を貰った。
すると名前は満足げに笑いもう一度謝罪の言葉を呟き歩き出した。
キッドは少し遠くの所で立ち止まり待っている。
俺は歩幅を大きくし名前に追い付いた。
「全く、これだからアイツに付き合うのは嫌なんだ」
忌々しそうに呟かれた言葉とは反対に彼女は笑みを浮かべており、なんだ、満更でもないのだろう、俺も口角を上げた。