main | ナノ

ガウンと相手のマグナムから放たれる音が反響した。
次の瞬間に胸に熱いものを感じて、視界が赤く染まった。
すぐに自分が撃たれた事を理解したのに、脳味噌は酷く冷静で現実味が無かった。



「名前ッ!」



仲間のみんなが私を呼ぶ声が聞こえて薄ら笑みを浮かべる。

私の背後には幼い子供が泣いていて、その場には違和感をもたらす程不釣り合いだった。
犯行時刻は夜中だったが元々この街は治安の悪い街。ストリートチルドレンが居る事は簡単に予想出来た筈だ。

勿論ルパン一味のみんなもそのことは承知の上だっただろうが、私だけはどうしても巻き込む気になれなかった。
逃げる最中に幼いストリートチルドレンが巻き込まれてしまい、思わず庇いながら戦った結果がこれだ。
まだまだ未熟なのに、戦えない人を庇うもんじゃないなあ。

あぁ、私、怒られるだろうなあ。

頭の中でぼーっとそのような事を考えながら、しかし体には力が入らず倒れるが誰かに支えられる。
ふわりと石鹸の匂いがして、あぁこれは五ェ門なんだと理解する。


「五ェ門!」


ルパンの叫び声と同時に風が頬にあたったので、五ェ門は走ったのだろう。
足の速い彼の事だ。すぐルパン達に追いつく。
ブオンブオンとお馴染みのいつも乗っていた車の音が聞こえてなんだか懐かしい気分になる。
瞼に力が入らなくて目が開けられないので感じるだけだが、車は猛スピードで走り出した。
これぞフィーリングという奴だろうか。…違うか。



「おい!名前!名前!」
「名前!死ぬんじゃないわよ!」
「名前ちゃぁ〜ん。死んじまったら俺様、怒っちゃうかぁらね〜!?」
「名前…死ぬで無いぞ…!」


みんなから次々と声をかけられ、不謹慎だが幸せな気分になる。
ルパンも次元も五ェ門もいつもは裏切ってる筈の不二子ちゃんもみんな焦っていて面白い図だ。
胸にあてられているこの手は不二子ちゃんのものだろう。必死に止血作業をしてくれている。
それでも急所は外れていたと言うのに血は止まらない。


「嘘…どうして…!?血が止まらない…っ」
「……奴の弾には特殊加工がされていたんだろうな…」
「そんな…!名前!生きてる!!?」


生きてるよ。
そう言ったつもりが全く声にはならなくて空気だけが口から漏れた。
酷く焦った一味の声が聞こえる。

…そろそろ年貢の納め時かな。
体は血を失ってどんどん冷たくなっていった。
そう言えば、車の中血生臭くないかな。私の血で跡残っちゃったらどうしよう。
関係のない事ばかり考えてしまって、一人で笑う。
そしたら不二子に怒られてしまった。
何笑ってるのよ!?って。


「み…んな…今まで…あり、がとう…ね…」


最後の力を振り絞って口から出した言葉に、一味は動揺を見せた。
なんだよ。私が恥じ捨てて言ってやってんのに。
少しだけムッとした。
しかし、ムッとしたのは私だけでなく、ルパンもそうだったようだ。


「なぁに馬鹿な事言ってんだァ!俺ァお前を死なす気なんざねぇかんなぁ!!」


滅多に見ないルパンの怒声に私は勿論、五ェ門や不二子までもが呆気にとられる。

でも、それでも私は駄目なんだ。



「ごめん、ね…ルパン…」

「何で謝るんでぇ。い〜つもは言い返してくる癖にィ」


目を少しだけ頑張って開けてみるとルパンはムスッとした表情で車を運転していた。
次元達を見るとやっぱり焦っていて面白かった。


「…わたし、みん…なに看取られ、て…幸せ…だよ」


微笑むと不二子が泣きそうな顔で馬鹿言ってんじゃないわよ!とまた怒鳴る。
冗談はいけねェな。と次元が私を見遣る。
五ェ門は如何にも不機嫌そうな顔で私を見ていた。

もう体は殆ど冷たくなっていて、それに気付いている不二子は嫌よ、名前!なんて綺麗な顔崩しちゃってさ。泣いてるの。


凄まじい睡魔を感じてそれに耐えきれず瞼を閉じると不二子の泣き声が聞こえて、次元と五ェ門の息を呑む声が聞こえる。





ねえルパン。最初の出会い覚えてる?
私がまだこそ泥の時にスカウトされたのが始まりだったっけ。
その時に次元と五ェ門が居て結構反対されてたっけね。
でも二人が私の力を認めてくれて本当に嬉しかったんだよ。
不二子は綺麗で憧れだった。

みんなとの思い出が走馬燈として駆けめぐり涙が止まらない。


どんどんみんなの声が遠くなって行って終いには何も聞こえなくなった。








――ねえルパン。今度は何を盗みに行こうか。