留三郎、となまえの唇が俺の名前をなぞった。 愛すべき彼女の持つ凛とした声に背筋がぞくぞくとする。 何も考えられないくらい心地良くて、少しだけ、怖い。 この上ないくらい幸せで、もう他には何も要らないほど。 なんだ?と小さく彼女の耳元で呟いて、彼女の体を一層強く抱きしめた。 カーテンは閉め切られたまま。明りも付けていない。 ただカーテンの隙間から漏れた朝を告げる光だけが部屋に差し込んだ。 そう、まるで心中前の様な。 異様で、気味の悪い空間だった。だけれど、そんな空間が俺となまえに休息を与える。 だって、これが俺達の愛し方だから。これが、普通だから。 自分達が異常だなんて事はとうの昔に知っている。 それはもう、痛いくらいに。 それでも俺達は愛し合うのをやめない。何故なら、俺達の間には既に依存関係が出来上がっている。 俺はなまえが居なければ生きていく事は出来ない。なまえも、俺が居なければ生きていくことは出来ないのだ。 あぁ、俺が居なくなってしまえば彼女をこの世から消す事が出来る。 そう思えるだけでどうしようも無い、言葉では表現出来ない気持ちが俺の心を満たした。 俺となまえは似たもの同士だから、きっとなまえも同じ事を考え、心を満たしているのだろう。 俺達は一緒だ。体がぶるりと震える。 ああ、嬉しい嬉しい嬉しい。 「とめさぶろう、愛してる」 乾いて切れた血の滲む唇で消えそうな声量で呟いたなまえに口角をあげた。 なまえの細い体を腕に閉じ込める。 「おれも、愛してる」 ( ← ‖戻る‖ → ) |