「あっ!ジェイド!」

ジェイドを認めるやいなや、エステルは微笑みを湛えながら花のようなスカートをふわりとさせてジェイドの元に急いで駆け寄ってくる。

「こんにちは、ジェイド。良かった……探していたんですよっ!」
「どうも……用事、ですか?」
「はいっ!」

悪意の全く見えない、純粋無垢なまでの笑顔が、逆に恐ろしい。
また厄介な事に捲き込まれるのだろうか、とジェイドは心の中で溜め息を吐きたくなる。
ユーリかフレンか、若しくはガイが近くを通る事を祈りつつ、その言葉の先を待った。
しかし、紡がれた言葉が全くの予想の範囲外であった。

「丁度良い茶葉が入ったので、ジェイドとお茶したかったんです!」

美味しいお茶菓子もありますよ、と付け足してエステルはジェイドの手を取り、ぐいぐいと引っ張る。

「エステルっ……待ちなさい!」

ジェイドの声に、エステルはふと足を止める。
そして小首を傾げた。

「どうしたんです?」
「どうして私なんですか」

そう問い質した刹那、エステルの表情が翳った。

「ジェイドは私とお茶するの……いや、なんです?」
「いえ、そういう訳ではなくて……」

調子が狂う。
いつもなら、きっぱりと迷惑ですよ、と冗談めかして言えるのだが、彼女には何故かそれが出来ない。
身分の問題もあるだろうが、何より変に真っ直ぐ過ぎる彼女の性格所以なのかもしれない。
ナタリアもそういう所があるが……それにやはり共に過ごした年月も関係しているのかもしれない。

「貴女と私は格別親しいという訳ではありませんから、その……」
「……だからです」

急にエステルは顔を上げて、ふわりと微笑んだ。

「ジェイドとはあまり話をしたことが無いですから、もっとお話したいんです!もっとジェイドを知りたいんです!ジェイドの事、もっと好きになりたいんです!」
「なっ……!?」

あまりにもストレートな言葉に思わず顔に熱が集まる。
恐らく他意は無いのだろうが、それでもまるで告白されているかのような物言いに照れ臭さが募る。

(全く……本当に調子が狂う)

向かい合って、いつの間にか両手を取られていた。
そして次の瞬間、エステルはまるで向日葵のような笑顔を浮かべる。

「っ……」

その笑顔には有無を言わせる余地など無かった。
そして、ジェイドは溜め息混じりに告げる。

「……言っておきますが、私はお茶には煩いですよ?」
「あ、奇遇です。私もですよ」

手を掴んだままエステルが歩き出す。
何となく邪険に扱う事も出来なくて、ジェイドは大人しく彼女についていった。


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