「ねーえ、実優、かまって?わんわんっ」
「っ……かわいすぎ!!」
わんわん、というのがこんなにも似合う30歳男性は他にいるのだろうか。私の知る限り、このひと――はるくんしか、見当たらない。
私より10歳も歳上なのに見た目だけ見ると大学生だ。童顔……というより、単純に顔が良い。
「仕事つかれた……」
「お疲れ様、こっちおいで?」
私は腕を広げる。すぐに子犬のように近づき、ぎゅっと抱きついてきてすりすりしてくるはるくん。本当にこのひとは10歳上なのだろうか……と思うことがよくある。
「んー……」
はるくんは甘えた声を出した。こんなに可愛い30歳男性がいてたまるか、と思いあまりの可愛さに逆になんだか少しいらついてくる。
「俺が仕事してたとき、ちゃんといい子にしてた?」
「急に年上感出してきたね」
「年上感とかじゃなくて本当に年上だもん」
しかし、はるくんが甘えてくるときはどこまでが素なのかわからない。少し演技をしているというか、あざとい時も多いのだ。素のときは大抵眠いときで、今の声はあまり眠そうとは感じられない。私は、はるくんの声や息遣いで眠いかどうかを大体判断できる。それゆえ今の私にはわかる。
これは、演技だと。
「ねぇ、実優の耳はむはむしたい」
その言葉は『子犬みたいなはるくん』が『狼』に変わる合図。吐息混じりの声で囁かれると、耳がぞわぁ……という甘い感覚に襲われる。
「囁かれただけでこんなになっちゃうの可愛い。実優は耳弱いよね……ん、」
「ぁ、うぅ……っ」
早速耳に唇が触れ、喰まれる。時々混じる吐息の熱が私の耳を急速に溶かしていく。やがて唇の隙間から舌が出てきて、そっと耳を這う。耳から伝わる甘い感触が全身に伝わり、私はまともに立てずにはるくんにしがみつく。
「耳舐めてるだけなのになぁ、それなのにこんなにとろけて……この変態」
「……はるくん急に狼さんになった」
完全に攻守逆転。いつもそうだ、はるくんは子犬のふりをした狼。私という赤ずきんを、甘々にとろけさせて食べてしまう。
「だって実優、こういうことされるの好きだもんね」
「はい、すきです……」
「素直な子好きだよ?よちよち」
なんだかんだ、はるくんに甘やかされるのが好きな私がいる。いや、本来私は甘えたがりなのだ。そんな私を満足させてくれるのは――はるくんしか、いない。
「っ、はるくん……」
「ほんと実優って甘えん坊のばぶちゃんだよね。俺の前でだけばぶばぶして?」
「ばぶ……」
傍から見たら完全にバカップルである。わかっている、そんなことは。でもそんなやり取りに心を満たされる私もいて。練乳を口に流し込んだ時のようなこの上ない甘さ。この糖度高めな関係は、中毒性しかない。
「ばぶちゃん、こっち行こっか」
はるくんはいつもの如く私をベッドへと誘導する。ベッドの上には、はるくんの好きなシナモロールのぬいぐるみが沢山いて。でもそんなことなどお構いなしにいつも甘美で殉情な行為をする。そう、今晩だって。
「実優」
「はるくんっ」
「……俺と何がしたいか、言ってみて?」
私はいつものようにこう答える。
「はるくんと、えっちしたい」
「ん、よく言えました」
長いようであっという間な、そんな甘い時間が幕を開ける。夜の静寂に淫らな花を咲かせて。その花蜜を味わい、夜を明かそう。情炎で身を焼き尽くして果てるまで。
list
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -