雨音が小夜曲を奏でる午前四時。私は、イヤホンをしてスマホを握りしめていた。
イヤホンから聞こえてくるのは、秒針の音と――想い人の寝息。
(気持ちよさそうに寝てるなぁ)
時々いびきの混じる寝息が、たまらなく愛おしい。寂しいけれど、寝息も可愛いし起こすのも悪いので話しかけることができない。
でも、あのひとは私のものではない。
そう、彼には彼女がいる。それなのに私達は、秘密の関係を紡いでいて。ほつれかけている赤い糸。ふとしたきっかけで千切れてしまいそうだ。
でも、今だけは。私は彼の寝息の音を独占している。彼のいびき混じりの寝息を今聞いているのは、私しかいない。まるで彼が今だけ私のものになったかのように錯覚する。
私は、イヤホンのマイクが拾わないような声量でこう呟いた。
「許されないのはわかってるけど、すきだよ。私のものになってなんて言わないけど、すきでいさせてほしい」
自分で言ったはずなのに、強がったその言葉が私の心を苦しめる。本当は彼を独り占めしたいのに。でも彼は私に曖昧な態度をとる。
わかっている。彼が私のものになるなんてことはないことを。その事実が、私の心に雨を降らせた。
雨音が強まる。私は通話の自分の音声をミュートにした。
「っ、すき、なんで私のこと見てくれないの、思わせぶりな態度取らないでよ……っ」
でもそんな思わせぶりな態度にときめいてしまう私がいるのも事実なのだ。例えそれが遊ばれているだけだとしても、嘘だとしても。
私は夢を見る。でもいつか現実に引き戻される。それならせめてその夢が少しでも長く続きますように、と願いながら私は目を閉じた。
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