「てかなまえさあ、芹沢と付き合ってんでしょ?あの人性欲あんの?」
「なさそ〜!優しそうに見えるけど淡白そう」
「どうかなあ?秘密」

 女子会という名の各々の彼への愚痴やその他諸々、飲み放題2時間制の中で、会話は尽きない。しかしまさか矛先が尚に向かうとは思わなかったけれど。途中から話は逸れて教授の愚痴やバイト先のこと、留まることを知らない彼女たちの口にうんうんと相槌を打っていたところまでは覚えている、のだが……

□■

「目は覚めた?」
「あれ…?」

 ここは居酒屋じゃないし、目の前にいるのは尚だし、ここは多分尚の部屋のベッドの中だし、たぶんというかドラえもんの色は青だというのと同じくらい、尚は怒っている。目が覚めた私に水の入ったコップを手渡してくれた。

「なんで……」
「女子会、するのはいいけどね?酒は飲んでも飲まれるな、ってそれなりにしつこく言ってたと思うんだけど」
「あの、えっと……」

 ふう、と大きなため息をひとつ吐いてにっこり笑った尚が言う。「俺が話すから、大人しく聴いてて」「はい」……要約するとこうだ。女子会に行くと尚に連絡したところまでは私も覚えている。そこまではいい。その後ヒートアップして、結局集まったメンバーのうち5人中3人が潰れて、無事だった2人がなんとかしてそれぞれの彼氏や同居人に連絡を取ってくれたそうだ。ちなみに私は指紋認証だったので指でロックを解除して尚に連絡してくれたのだという。

「大変ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
「まあこのくらいはいいんだけど。俺の話してたんだってね?」
「これは一切の嘘じゃないんだけど、思い出せません」
「うん。素直でよろしい。素直ついででいいけど迎えに行った時に聞いたんだ。俺に、性欲がなさそうって?」
「それは一応否定したよ!?」

 本日何度目かわからないため息を吐いて、床に座った尚が私の頬をするりと撫でる。私の手からコップを奪ってテーブルに置いた。ずい、と比喩ではなく目と鼻の先に整った尚の顔が迫る。一瞬身体が強張って言葉が喉に詰まった。

「毎回するたびにあれだけ俺に泣かされてるのにね?」
「う、うるさいなあ……」

 私の頬を撫でた手は二の腕を伝って左手に絡まる。先ほどは打って変わって優しく微笑んだ尚が「それはさおき、」と前置きする。

「これからはお酒をちゃんとセーブすること。お酒はほどほどに楽しむのが一番。飲み過ぎはダメ。いいね?」
「はい。返す言葉もございません」
「それと。わかってないみたいだからはっきり言葉にするね。俺は、よくなまえの事を犯したいって考えてるよ。抱くときに泣いて俺に縋って喘いでるの可愛いなって毎回思ってる。よく優しそうとか淡白そうとか言われてるのは知ってるけど。声に出さないだけで……なまえのこと、考えてる。ねえ」

 絡まる指に力が込められて、指先をすりすりと指の腹が撫でる。微かにぞわ、と背筋が粟立つ。眼鏡越しに私を見つめる瞳に、僅かな熱が込められた。一瞬で眼球に釘でも打ち込まれたみたいに、身動きが取れなくなる。あいていた右手がもう一度頬に添えられて、髪に触れてゆるゆると遊ぶ。柔く笑んだ尚がふふ、と声を漏らして笑う。穏やかなこの笑い方が、私は大好きだ。

「……尚のえっち」
「はは、知らなかった?男はえっちな生き物なんだよ?」

 ベッドに身を乗り出した尚が優しく頬に口づける。ぎし、とスプリングが悲鳴を上げた。すぐったくて、先ほどの発言が脳内でリフレインして、触れられた箇所があつく熱を持つのが分かる。

「私も、いままで言えなかったけど。尚の好きにされたいって思ってるよ」

 ほんの少しの勇気を出して。尚から遠いほうの手をぎゅっと握りしめて言葉を吐き出した。一瞬目を丸くしたと思ったら悩まし気に眉を下げた尚が痛いくらいに抱きしめてきて、少しの下心と120%の愛情で思い切り背中に腕を回した。私のことを、お、犯したいとか、そんな強気な事言うくせに、きっとこの後は優しく優しく、まるで壊れ物に触れるみたいに私を抱くのだろう。そんなあなただから、そんな尚だから、大好きで離れられないって分かってるのかな?目の前にある鎖骨を甘噛みすると音のない声が一瞬聴こえる。ぱっと身体を離した尚と目線が合う。

「可愛いね」

 にっこり微笑む尚はまるで天使だが、考えているのはきっとえげつないことだ。でもそれでも、私はあなたの手を掴んでいたいし隣にいたい。伸びてきた手が、後頭部の髪を梳いてゆっくりと引き寄せられる。髪に触れられる心地良さとこれからを思ってそっと瞳を閉じた。
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