今年の夏はとんでもない酷暑で、外に腕を出しただけでじっとりとした空気と熱がまとわりつく。最早殺人的な日差しは、日本を焼き尽くすかのように照り続けている。浴衣や着物が夏には最適で涼しい装いだったのも、夕方には涼しくなるのももう昔の話。夜になっても熱の籠った空気は和らぐことはない。お陰で連日ベランダに出るとき以外はカーテンを引いて、冷房が付きっぱなしのこの部屋で、久しぶりに郁弥と二人で過ごせる事自体はとても嬉しいのだけれど。

「ねえ、腕」
「腕?」

 手招きされて私の漫画を勝手に読んでいる郁弥の傍に向かうと部屋着のTシャツから伸びる腕を引かれて彼の膝の上に乗せられる。バスの中で自分の荷物を抱えているみたいな。それでも郁弥の目線が自分よりも下にあるのは非常に珍しいし新鮮だ。つむじが見えるな、さらさらふわふわの髪が肌を掠めて少しくすぐったい。彼はといえば二の腕をやわやわと揉んだり摩ったりしている。楽しいのだろうか?彼女の脂肪を弄ぶのは。「何?」「冷房、効き過ぎじゃない?こんなに冷えてる」「先にそれを言うべきでは?」
 二の腕の内側、特に白くて皮膚が薄い部分に唇を寄せたり指で擦ったりと私の腕で遊び続けている。血管に沿って舌を這わせて甘噛みしたり。むず痒さがじれったさに代わるまでそう時間は掛からなかった。

「郁弥…さっきからなんで腕ばっかり」
「女の子の腕ってさ、細くて柔らかくて枝みたい」
「郁弥は鍛えてるから固いもんね」
「そう?普通じゃない?」
「郁弥のやらかいとこはね、ここ」

 首の付け根のところ、浮き出る血管がぷっくりとしていて柔らかい。指でなぞったり唇を寄せてやり返すと「んっ、」と鼻にかかった甘い声が一瞬漏れる。可愛い。不機嫌そうに眉を寄せて「キスマークはつけたら怒るよ。水着になったら隠せないんだから」と口を尖らせる。そうは言うけど、郁弥は毎回私にキスマークを付けるくせに。

「冷房寒いなら温度上げる?」
「いや……その必要はないと思うよ」

 またするりと手が絡めとられる。手の甲を指の腹がやわやわと撫でられる。「郁弥、」「……いい?」首元に擦り寄ってくる。もう片手は腰に添えられていて、私を見つめる瞳はあらゆる感情が詰め込まれていて揺れていた。緋色の瞳が、じっと私の返事を待っている。私が駄目だと言うはずないことを分かっていながら一応声をかけてくる彼が愛おしくて仕方ない。返事の代わりに前髪越しにおでこにキスをしたら、両手で力の限り抱きしめられた。今日はたくさん甘やかしてもらおうかな。反転した視界を受け入れて、郁弥の首に腕を絡めた。
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