今年ももうセミの声を聴かない日はない8月。中旬には中学生のころからの友人・桐嶋夏也の誕生日だ。ちょうど一昨日、世界をあちこち駆けまわっている彼から来週には日本へ帰ると連絡をもらったから、久しぶりに賑やかな声が聴けるだろうな。これはこれで楽しみだ。
 まあ夏也のことはそれはそれとしてだ。問題は、その7日後。8月27日はわたしの大切な恋人、芹沢尚の誕生日だ。
尚のことは中学生のころからずっと好きで、告白するまでに時間はかかったけれど部活の仲間だから、だとか勉強を教えてもらったお礼に、だとか何かかと理由を付けて(中学生なのでプレゼントもたかがしれているけれど……)渡してはいた。中三で付き合いはじめてからも毎年お互いにプレゼントを贈りあっていたし、その内容もパスケースや生活で使うものが多くて、おおよそのプレゼントとして渡せるようなものはあげ尽くしたように思う。今年はどうしよう。
もういっそのこと本人に何が欲しいか聞いてしまおうか?確実に欲しいものをあげたほうがいい気がする。
とりあえず美味しいものを食べてほしい気持ちがあるのは本当だから、少しいいお店を予約しよう。それから、プレゼントはどうしようか。

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「尚、27日あけておいて」

 尚は頭も良ければ面倒見もよくて、人望も厚い。だから彼の周囲には人がいることが多い。別に隠すようなことでもないからと聴かれたら誕生日も血液型も星座も気軽に教えてしまうため、誕生日もバレンタインも毎回それなりの量を抱えることになる。本当を言うと少しもやもやしないこともない、けれど。彼の交友関係に私が口出しするのも違うと思うし、決まって彼は「一番の女の子は君だけだから、安心していいよ」という。そんな歯の浮くような言葉をさらっと言える人を初めて見た。(はじめ、脳が何を言っているのか理解するのに非常に時間がかかったのだ)

「27……ああ、うん。わかった。あけておくよ」
「それでさ。何が欲しい?今年」
「プレゼントとか別に気を使わなくていいのに」
「そうはいかないでしょ。なんか手元に残るもの上げたいなって思ってるんだけど、だいたいのもの上げた気がするからさぁ。本人に聞いた方が早いなっておもったんだ」
「まあ……そうだよね。わかった、考えておく……あ、いや。待って、あった」
「欲しいものあった?」
「ものっていうか」

 だいたいはっきり言ってくれる彼がもごもごと言葉を選んでいるのは珍しい。何なんだろうか。そんなに言いづらいもの?それともとても高価なものとか?

「一度、やってみたかった、夢…みたいなものがあるんだけど」
「ゆ、夢!?私に叶えられるようなことなのそれ!?」
「むしろ君にしか叶えられない。夏也でも誰でもないなまえじゃないとダメなこと」
「えっ、え、何……?死…?」
「違うよ。……プレゼントは私、みたいなのある、だろ」
「え」
「ああいうの、一度……見てみたいな、と」

 言葉が出ない。視線を泳がせて本当に本当に言いにくそうにしている彼を初めて見た。なんといえば良いんだ。手を繋いだりキスをしたりと、一通りは済ませているが頻度だってそう多いわけではない。何ならそれまで尚に性欲ってあるのか?と思っていたくらいには淡白で理性の塊だとおもっていたし、今でも少し思っている節はある。

「……何か言って」
「尚がそう言うなら喜んで」

 居酒屋みたい。いつもの調子に戻った彼がほんのり期待の込められた瞳で見てくる。何よ、さっきはぼのぼのの汗みたいなのでも出てそうだったのに。けれどどんな形であれ、彼がそうして欲しいというのならそうしよう。私の手首をく、と引いて耳元に唇を寄せて尚は言った。

「楽しみにしてるね」

/2020年尚先輩お誕生日おめでとうございました
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