腹が立った。非常に。一個下の男子生徒からの手紙を受け取っている名前を、偶然見かけてしまった。どうにも心が落ち着けないのは彼女のその態度のせいである。

「にやにやと、恥ずかし気も無くあんな風にだらしのない顔面を晒して」
「ひどいね、言い草が」

名前が隣で、檸檬ソーダのプルタブを持ち上げている。あまり流れない風のもつ温かみは、この非常階段に相応しい。「あんな可愛い顔した後輩からだもん、にやつかないでいられないでしょ」俺はストローで吸い上げたオレンジジュースの酸味が足りないと感じて、名前のつやりと潤った唇を一目だけ盗み見た。

「だがあんな表情を見せてしまっては…もう嫌われただろう」
「さっきからなんでそんなに刺々しいのかな」
「しらない」
「私のそういうリアクションの豊かさに、目を奪われるって書いてあったよ」
「どこにだ」
「後輩のラブレター」
「馬鹿にされているんじゃないのか」
「真剣だよ、愛の告白だもん」
「内容を読み間違えているんじゃないのか」
「字が綺麗で読みやすかったな」

彼女が缶を逆さまにして、最後の一滴が口の中に吸い込まれてゆく。字なら俺の方が美しい自信が、ある。引っ掛かっている髪の一束がするりと降りて、告白で染まった名前の耳の縁が隠れてしまう。そんなに気になるのなら、その男の隣で檸檬ソーダを飲んでいれば良いだろう。

「放課後にデートしようって言われた」
「…今日は俺と、ドーナツの食べ放題に行く約束があるだろう」
「あれ?そうだったっけ」



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