匂いがそれだ、彼の纏っている。赤子のぷるぷるに膨らんだほっぺたという実体を想起させるようなただの香りは、間違いなく先生の山で薫る桃だ。鼻腔に届いたとき、西洋の天使みたいな可愛らしい空気が私のからだに乗るのに、なんだかそんな感じがするのに、実在的に私の頭に乗っている手付きはちっとも優しくない。

「どけ」

頭を鷲掴みにされて、戦闘地から強制撤退させられる私は、髪の毛が彼の指にしっかりと絡んだ痛みを感じながら、こいつは本当に師匠があの先生であるのかと思案した。頭をほんの少し動かして(たぶん、髪の毛が数本ちぎれたとおもう)、彼の腰元に繋がれた刀、柄を見やった。なるほど、私のものとよく似た紋様である。あの山の香りが降っている。



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