携帯が鳴って、身体がへんに緊張したのは現在の時刻が日付変わってまだ、二時間しか経っていないせいだ。ソファにて、複雑な形をしたクルミの皮を爪先でめくって遊んでいた私は、充電器に繋がれた携帯電話を手に取るか迷った。だって、彼だけの着信にと設定を施したメロディーは、こんな真夜中に似合わない。

「煉獄」
「起きていたか」
「私の家の時計、壊れてるかも。今、夜の2時ちょうどなんだけど」
「こちらの手元にある時計も、同じ時刻を指しているが」
「君は寝てる時間じゃないのかい」
「子供扱いするな」

あなたにお子様味が無いのは承知しています。電話機越しにでも伝わるくらい、飲酒の香りが漂ってきているので。そういう風に言葉を紡ぐつもりもあったが、だまって己の唇にクルミをひとかけら押し込んだ。

「名前」

夜中に電話してきてかわいく名前を呼ぶなんて、何考えてんだ、こいつ。思いつつ、額に軽く滲んだ汗を感じている。

「……」
「何を食べているんだ」
「用件はなんですか」
「…少し声が聞きたくなっただけだ」
「………あのさあ」
「いけないのか」
「君が誰と飲んでいたのか、当てられる自信アリ」
「ふむ、言ってみろ」
「口の軽い宇髄くん」

クルミの香りを最後にして、通話を切った。「あーむかつく」なのでこれは完全な独り言になる。静かな部屋の中で煉獄の声を聞いたので、まだ、とてもよく彼の一言が耳に残っている。聞きたかった、ではなくて聞かせてやりかったの間違いだろう。自らの声を。



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