私は二階のベランダにて、両てのひらでホットなマグカップを包んでいた。電線にぶら下がった雨のしずくが、風を受けて震えている。まだ暫くは、落っこちそうにない。しかも雨は止んだ。雫の成り行きをこのままずっと、見守っても良いと思った。

「おーい!!名前!」

観察は一旦の中止を余儀なくされた。声のデカさからして誰だかなんて、考えなくても分かること。杏寿郎君だ。もう学校は始まっている時間なのに。彼も朝からの授業が面倒になって、サボりたくなる日があるのだろうか?通学、通勤者が去って落ち着いた道路を眺めて、おかしな優越感に浸りたくなる日があるのだろうか?…それとも、お昼に放映される主婦向けのどろどろ恋愛事情再現VTRを見るのが待ち遠しい?私は、その全てに当てはまる。紅茶を一口含んだ。もう冷め始めている。

「なんですか」
「風邪か!?ならばそんな所にいると冷えるだろう!悪化してしまうぞ!」
「風邪じゃないよ」
「では何故学校に来ない!虐めを受けているのか!」
「イジメられてもいないけど、そういうことはあんまり言わない方が良いよ」
「そうか!悪い!」
「いいよ」

杏寿郎君はきちんと制服に身を包んでいたので、これから学校に行く気なのかもしれない。「名前!!」肩にかけたスクールバッグの持ち手をぎゅっと握りしめて、彼は頬をちょっとだけ赤らめた。私の目の端で、雫がひとつぶ落ちていった。

「君がいないとプリントを配るのが少し面倒なのだが!」
「はあ?」

確かに私の席は杏寿郎君の後ろで、私がいないことで彼は後ろに続く列の皆にプリントを配るには一度席を立たねばなるまいが。…彼はそんなことを気にするタイプではないだろう、全く。



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