腰に手を伸ばして、腕を回して、抱いた。彼女が息を小さく吐いたのが、耳元で聞こえた。どこまで物理的な距離を縮められるものだろうと思い、もっと強く抱きしめた。細すぎる身体の面積が己の腕の中で測られて、それは目測よりも幾分も小さくて、愛おしかった。こんなにも頼りない体でどうやって生きてこれたのだろうかと想像して、その過程で誰かの肩に寄りかかったこともあるのかと想描して、「ないよ」と発せられた彼女の声に含まれた色を受けとめて想った。「杏寿郎君、わたし今夜任務は、無いよ」今度はこちらが肺に溜まった空気を吐く番だった。それから、なにも体を抱かれているのは名前だけではないのだと気が付いた。自分の身体にしっかりと回された腕は、俺が彼女に向けている強さと同等だった。鴉は鳴かない。


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