「甘露寺ちゃんに会いたかったから」
「もう無理だ別の場所で会え。何度通おうとも同じ目に遭うぞ、ああいった生き物というのは敏感なんだ」
「……」
「勝手に巣箱に手を入れるからだろう」
「一回しかやってないのに…、しかも今回は門の前で刺すなんて」
「こんなことで大事になってほしくない」
「はぁ…」

ふ、と一度、唇の上にその吐息を乗せるふうにして彼女は溜息を付いた。俺は腫れあがった皮膚にくすりを塗り込んで、それからできる限りやさしく包帯を巻いた。その間名前は大人しく黙っていたし、涙が渇いてつっぱった目の下を指先で弄っていた。腫れと包帯の厚みのせいで、隊服の襟元はぼたんが閉まらなかった。どうして首元なんかに、針の進入を許したのか。だからそこは常に閉めておけと日頃注意していたのに。俺の話を聞かないせいだ。そんな所に入れるのは俺だけで十分だ。そして名前が甘露寺邸のミツバチに刺されるのは今回で3度目だ。

「胡蝶から聞いたろう、一度刺されると抗体が出来て…、」
「あーあーあー」
「…………」
「あっ。私煉獄君のその顔嫌い」
「呆れている」
「だから嫌、なんか私に興味なくしたって顔」

名前は手鏡を取り出して、処置を施された己の首元を映した。そんなちいさな鏡ではなにも分かることなどないと思った。取り上げる。「あ」それで俺は、自身の表情のようすを確認する。『私に興味をなくしたって顔』と評されたそれは、どう見たって彼女だけを想った末に塗り込まれた不安がたっぷりと乗っている。これのどこが、そのように解釈されるのだろう。



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