私は商店街を歩いていた。少し先を行った所に小さく在る喫茶店のアイスココアに目的があった。アイスココア本体というよりは、それを淹れる人物に興味があった。この曜日この時間に、彼はそこに居るのだ。勤務時間と容姿から推測して、彼は私と同じ学生だと思う。私は彼とアイスココアに囲まれる時間が好きだった。コーヒーは飲めない。あれは煙草の灰をよく溶かした飲み物だと思うほど、ろくでもない印象だ。

スクールバッグの中の携帯が震えた。私は着信メロディーを個人によって変えるので、現在私の携帯に電話をかけている相手の番号は私の端末に登録されていないという事は分かった(たとえばしのぶちゃんだったら子猫の可愛らしい鳴き声の着信音であったし、たとえば実弥だったら、今爆弾が爆発寸前なんですよという風のどきどきする音だった)。私は画面に映されている番号に確かに覚えが無い事を確認した後、みどり色の通話ボタン部分に指紋をぺったりと押し付けた。

「もしもし」

流れ、携帯を耳に当てると、聞き馴染んだ大きな声が聞こえた。天元だ(因みに天元の着信音はディズニーランドの愉快なパレードを思わせるメロディーだ。彼は二匹のネズミを飼育している)。私は携帯を耳に当てたまま、音量を限りなく下げた。丁度良い具合に、彼の声が耳に届いた。

『友達がお前の番号知りたがっているんだが、教えて良いよな』
「私の推測が正しければその友達の携帯から、君は電話をかけている」
『そういう事』
「……聞いた意味ある?それ」
『良かったな煉獄。あ、名前、今から煉獄に代わるから』
「承諾なんて誰もしてないんだけど」

煉獄という名であるという情報しか知らない男に電話が継がれた。私は音の無い溜息を付きながら、目的の喫茶店の看板の前で歩みを止めた。『…名前さん申し訳ない。宇髄が勝手な真似を』心臓から身体の先に向かって素早い電流が走った。それは私がこの後聞く事になろうとしていた声と酷似していたので、早急に喫茶店内の様子が伺える窓から中を確認した。「えっ」店内には携帯電話に耳を当てる彼と、笑って彼の肩を叩く天元と、その様子に呆れて目を離した途端、窓から覗いた私を発見してしまう実弥の姿があった。



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