コンビニで天丼と苺ミルクの350mlパックを購入し家に帰った。部屋のカーテンを目いっぱい開け、窓から外を眺めた。昨夜から一日中降りっぱなしの雨によって濡れた大通りのコンクリートが、信号の明かりを吸収してネオンのように光っていた。名前の部屋から見渡せる風景の中には、人の手が加わっていない自然的なものは一切見当たらなかった。夜空だって、都会的な光の集約に慄き、星粒ひとつ見せないのだ。

弁当をレンジで温めている間、名前は玄関のドアに付属している郵便受けの中身を確認した。水道料金の支払い用紙と、煉獄からの手紙が一通あった。支払い用紙は金属製のドアに水道会社の大きなマグネットで留めた。煉獄の手紙はつまらない白の便箋で、容姿は事務的であったが、名前の胸は中の秘密を思って高鳴った。

「煉獄杏寿郎」

差出人直筆の名の、美しい文体を、出来る限り壊さぬよう声に乗せた。それは宙に浮かび名前の周りを漂った後、消えて部屋中を暖かく満たした。電子レンジの中の天丼弁当すらもほかほかに温めたので、役目を奪われたレンジが音を鳴らして抗議した。封を開けないまま、両の掌で封筒を挟み込み、微かな紙の厚みを感覚で測った。一枚、長方形の、親指ふたつ分くらいの面積の紙が封入されている、たった一枚。



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