明るいところを目指した虫たちが、店の入り口に集っている。蛾とか、カナブンとか、小さな虫が。私はそれらの邪魔にならないように背を低くしながら店内へと進んだ。扉が大きく開いたのに、虫は一匹も中へ入っては来なかった。季節では無いのに、レジの横でおでんをやっていて出汁の良い香りが充満していた。手に持っていた携帯が振動する。煉獄からだ。ソファに俯せになって動かないでいたものだから、深く寝入ったのだろうと物音を立てない努力をして外へ出てきたのに。起こして二人で来ればよかった。

「もしもし」
『名前』
「なんだい」
『どこへ行ったんだ』
「コンビニです」
『…一人でか?』
「そうだけど大丈夫だよ、心配性だなあ」
『もう1時過ぎているんだぞ』
「知ってます」
『次回からは夜中出歩くなら俺を起こしてくれ』
「分かったけど…」
『…む、おでんか。良いな』
「はい?」

「おでん。買って帰ろう名前!俺はちくわぶと大根と牛すじと…、それから大根、海老はんぺんにする」
「エ」
「それからもち巾着とだし巻き卵も追加」

電波に乗っていない、煉獄の声がすぐ隣にあった。なんだ。「追っかけてきてたの?」ついさっきまで寝ていた煉獄は、急いでそのかみのけを一つに結んだんだろうか、「まさか。探したさ。君が居ない事が気配で分かって起きてしまった」ちょっと千寿郎君みたいだ。

「怖。どんだけ私の事好きなの」
「フン」
「自慢気のようだけど、褒めてるわけじゃないよ」

私は口角がゆるんで持ち上がってゆくのをどうにかこっそり抑えていた。煉獄は私の隣にぴったりと並んで、一緒におでんのメニューを眺めた。彼の手の中では家の鍵がちゃらちゃらと可愛い音を立てていた。私は無意識に自身のポケットを指先でなぞった。煉獄の持っている形とおなじそれが私のポケットの中にも入っている。あたりまえだ。当たり前の事だ。私が先に出て煉獄が追いかける形で家を出てきたのだからこの空間に家の鍵が二つあるのは当たり前だ。ひとりいっこ、同じ家の鍵を所持しているのは当たり前のことなのだ。



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