やわらかな肉質はどこまでも歯を沈ませる気がする。名前は庭で取れた、生暖かい苺ひとつぶに噛みつきながら、さきほどあったばかりの煉獄との口付けの事を考えていた。

「どうですか。お味は」
「うーん、甘く出来ていると思うけど冷やした方が美味しいね」

お盆に炭酸のジュースを乗せて持ってきた千寿郎君のくちに、小粒のそれを押し込んでやる。炭酸は透き通ったグラスに、砕かれた氷と共に浮かんでいる。千寿郎君がお盆を床に下ろすまで、それらはからころと音を鳴らしていたので、私のこころを爽やかにさせた。手に取って一口頂く。メロンとかぶどうとか、そんな緑色のフルーツの味を期待して飲んだが、ふつうのソーダだ。名前が飲む前から勝手にそう感じたのは、グラスにうっすらとグリーンの色味が認められるからだと思う。

「自家栽培でこんなに美味しく生るんですね」
「私の育て方が良いからだよ」
「ふふ、そうに違いありません」
「嘘。私が任務続きのときは、千寿郎君がお世話してくれてた」
「水をやっただけですよ」
「君から水を与えられたら美味しく実らないわけにはいかないんだよ」
「そうですか」
「そうだよ」

千寿郎君は笑ってソーダを飲んだ。つめたい水滴を纏ったグラスの中身を、美味しそうに口に含む彼を見ていると、そっちのグラスのほうが美味しい炭酸なんじゃないかと思えた。じつは、彼のにはメロンの果汁がひとつぶ垂らされていたりして。グラスはまだ手を付けられていないものが一つある。

「兄上はどちらへ?」
「さあ」
「あれ、先程まで此処に居ましたよね」
「うん。でも、なんか急に出かけちゃったな」
「…喧嘩したんですか?」
「まさか。私達は仕事のこと以外で喧嘩なんて、しないよ」
「うーん。どこへ行かれたんでしょう…。名前さんの作る苺を一番楽しみにしていたのは兄上なんですよ」
「しってる」
「早く戻ってきてくれると良いんですが」
「じゃあ、煉獄には一番おいしい苺をあげよう」

名前は煉獄のぶんのソーダのなかに、特別真っ赤な苺の粒を浮かべた。炭酸の泡たちが、果実のからだをくすぐることに急いでいる。ころりと体積の減った氷が傾いて、ゆっくりと、苺の温かさを奪った。



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