「なにこれ!まっず!」

名前が今にも吐き出しそうな勢いで言うので、耳を疑った。不味い筈ない。食材は先程近所の農家から貰ったばかりの新鮮なものだし、調味料だって千寿郎に確認を取りながら使用した。味見だって済ませている。おかしなところなんて一つもない。よって不味いはずはない。

「腹をすかせた君のために作ったんだ。その冗談はよしてくれ」
「…………」
「名前?」
「…わたし、どんなに不味くたって食べ物を粗末にはできない」
「おい」
「たべる…わたしたべるよ…」
「本気で言っているのか」
「…それ瑠火さんの割烹着?」
「そうだが」
「…かわいいね」
「俺はそんな言葉を待っているんじゃない」
「煉獄の淹れた水おいしいね」
「淹れてない、蛇口を捻っただけだ」
「おかわり貰える?」
「なんの」
「水の」

名前の箸を取り上げて、自身の手料理を一口摘まんだ。味は先程味をみた際の通りである。まだ彼女が水を催促するので仕方なく持ってきてやることにする。きっと、彼女は舌が可笑しいのだ。前日にヘンなものでも食したのだろう。それにしても、隣の部屋で千寿郎と父上が同じものを食べているはずであるが、先程から声の一つも漏れては来ない。母の割烹着は、俺が袖を通すと少し丈が足りない。



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