「めを交換したいです」
「目?」
「私と杏寿郎君のめをです」
「むう。現実的ではない話だが、交換したとしてどうする」
「交換したとして」
「ああ。俺の目を持った名前は、何を視たいのだろう」
「左右上下です」
「?」
「たまには後ろなども見てほしいです」

「おまけに造形の全てを何時でも思い出せるというくらい念入りに、私の顔や身体も見せます。飽きるくらいに見せます」

「そうしたら、満足するでしょう」

満足というのは、俺の目を持った名前がなのか、名前の目を借りた俺の事なのか、はたまた何方の事も指しているのかは分からないでいた。それについてを問わずに俺は、執念に発言される彼女の口癖をふと、思い出してしまうのだった。『杏寿郎の前には少ない数の、限られた人間しか居ません』それと今の会話は繋がっている気がしたが、全く別次元な話の気もした。横で餡を包んだ餅を頬張る名前を視界の真ん中に映るよう固定した。彼女の瞳は夜中の深海のような色をしていた。存在を確認できるが、決して明るみに出てくる事は無い。明暗の概念すら忘れてしまっているのかもしれない。

「杏寿郎君は私の目で何を視ますか」
「名前の目」
「はい」
「君の目を通してしまったらこの餅一つでさえも違った色に映りそうだな」
「答え合わせしてみますか」
「餅の色を?」
「はい。この餅は天鵞絨生地のような深い赤です。餡の色は宝石のように光る青」
「そんな馬鹿な」
「ふふふ、今の杏寿郎君の顔は結構好きです」

名前はにこにこと笑って、少しの間その瞳を瞼の奥にそっと隠した。



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