肩を抱いた。華奢で、生成りのいろをした着物につつまれている。

「わ…驚いた。…どうかしました?」

急にからだに触れたから、驚かれてしまったのだ。でも煉獄の中でその行為は何度も頭の中で練習されていたことであったし、こころの中の準備とやらも、これ以上ない程に整えられていた。ぜんぶは煉獄の中でひとりでに起きていたのだから、名前が知らないのは当然で、名前がそう口にするのはだいたいあっているに違いない。けれど、煉獄はもし肩を抱いた場合として、彼女が発するであろう言葉の選択の中に、その一言を予想の範疇においていなかった。いくら彼女のようすをじっくり伺っても、見出せる言動に大方見当をつけてみても、それらは煉獄の空想でしかなく、証拠に名前は頬を赤らめて見せてくれたり黙り込んだりする様子は無くて、男女の間柄を漂う色の素振りも無い声で、驚いたと口にしたのだ。

「あ、めが、降りそうだ」
「あめ?」
「き…。きみが濡れてしまうと困るので、どこか茶屋にでも入ろう」
「…こんなに晴れているのに?」

淡さがのった恋心と現実的な彼女の無表情が相まって、あたまのなかをぐるぐると巡っていた。肩を抱いている手に震えを伴っているかもしれない。分からない。正確に判断が出来ていないせいだ。まともに言葉だって紡がれない。でも、できる限り手は、離したくない。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -