「あきらかに出し過ぎだと思われる量の歯磨き粉を歯ブラシに乗せて口の中へ入れる名前も、着た洋服を裏返しに脱ぎ洗濯機へ放り込んでそのまま干し、再び着る際になってやっと衣服を本来の形に戻す名前も可愛らしいと思っているから大丈夫だ」
「はあ…?煉獄って可笑しい事言うんだね。可愛いのは私であって歯磨き粉の量なんかじゃない。洗濯物を裏返しに洗って裏返しに干す私だって、そうではない私だって、どちらも私なんだものそりゃあ可愛いわよ。当たり前でしょ」

という夢を見たんだ。そこまで話を終えると名前は目を細くしてこちらを睨んだ。彼女の着ているグレーのシャツのサイズが身体の大きさに合わず、ズレて肩が露出してしまっているのは仕方のない事だ。それは俺のシャツだった。「煉獄の夢の中の私って、なんか、とんでもなくイヤな女だね。…いや、今客観視できたからそう思えるだけであって、現実の私も意外と、良くない言動に溢れていたりする?」常に共に居るのにも関わらず、否、だからこそというべきなのか、ただ夢の中まで彼女と一緒なのだという小さな自慢話をしたかっただけなのだが、名前は気を悪くしたようだった。なので現実の延長でない証拠として夢の中での君は西洋のドレスを身に纏っていたと付け加えた。それは絶対に、昨日観た映画の『マリー・アントワネット』の影響を受けていると彼女は指摘した。そうかもしれない。実際に映画を観ていたのは名前で、俺はその隣で明日の授業に使用する資料を纏めにかかっていた。物語としての内容は全く頭に入っていない。画面の景色が印象的だったのだろう。

俺はシャツ一枚を身に纏って洗濯物を裏返したままハンガーにかけてゆく彼女を抱きしめた。太陽の光に透かされた髪には、ドレスにふさわしい髪飾りの羽よりも幾分も小さい羽毛布団の羽がひとつ付いていた。昨夜はベッドを二人で荒らしてしまった。首元に顔を埋めると、一切の動きを封じられた名前が小さく抗議の声を上げた。その声量にやさしさがどの程度含まれているかで俺はこの行為を続けるか判断した。強く抱き、首の皮膚の匂いを嗅いだ。すこしの汗と、互いに同じボディーソープと、名前だけのあまいミルクのような香りがあった。心が完全なまでに満たされてしまっているのに、まだ朝は始まったばかりだ。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -