もう藤の家紋の屋敷を出なければならない時間だというのに、起きてくる気配が無いからやむなく部屋に入ってしまったのだ。普段、仮面をかぶっているのだと言われるほど表情を変えない名前が、目尻と眉を下げている。薄い唇は更に伸び、弧を描いている。

「んふふ」
「っ………」
「だめ、これ以上吸えない」
「………」
「猫」
「………」

駄目だ。寝顔を見ているこの状況を知られてしまったら殺される。そう直感して汗が額に
浮かび上がり始めているのに、この場を動くことが出来ない。彼女の柔らかな笑顔から視線を逸らすことが出来ない。部屋を今すぐ出ていかなければならない。だというのに、俺の足は彼女の眠る布団にゆっくりと一歩、近付いている。その柔らかな表情をもっと近くで見たいと望んでいる。



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