「ハァー...」
「どうした名前、ため息なんて付いて」
「こんなに疲れて帰るというのに、家にはやらなければならないことが沢山待っているんですよ…。洗濯だとか報告書の作成だとか、あとわたし今、外に布団を干して家を出てきた事を思い出したんですね、さっき、夕立があったじゃないですか」
「…君はつい一週間前も同じような理由で布団を水浸しにしていなかっただろうか」
「よく覚えていますね」
「最近の事だからな」
「まあごもっともです。でも帰ってふかふかのお布団に寝たかったんですよ、分かるでしょう?煉獄さんはお布団を自分で干されますか?」
「そういう時もあるが…、大体は弟の千寿郎に、家のことを任せてしまっているな」
「ああ。良いですね家に誰かが居るというのは。帰ったら暖かなご飯があって、部屋には太陽の光を吸い込んだ布団が敷かれていて、玄関まで出迎えがあったりして」
「そうだな。改めて言われると幸せなことだ」
「わたしはそんなお嫁さんが欲しいです」
「なにを。君は女性だ」
「こんな仕事をしていたら、余程の理解がない限りわたしを貰って下さる男性なんて居ませんよ…。それにわたしは一人で暮らしている今ですら、台所で野菜を腐らせて布団を雨に晒し、玄関に倒れこんで朝を迎えるという生活をしているんですから」
「わはは、最悪だな」
「でしょう?誰も貰いません。こんな話だって、そうやって笑い飛ばしてくれる煉獄さんくらいにか出来ませんよ」
「この話は俺くらい」
「そうですよ」
「ところで名前」
「はい」
「今日は濡れた布団で眠るのか」
「きっとそうなるでしょうね」
「俺の家になら来客用の布団が余っているが、どうだろう」
「え?泊まらせて下さるんですか」
「ああ、嫌でなければ」
「優しい!是非お願いします」
「ではこのまま共に俺の家へ戻ろう。千寿郎がうまい飯も用意しているぞ」
「うわあ、うわあ、素敵です!先程まで憂鬱でしたがなんだか楽しくなってきました!見てください煉獄さん、足も軽やかに跳ねます!」
「なんだかぎこちないが、とても楽し気であることは伝わってくるぞ!」
「良かった!早く弟さんが待っている家に帰りましょう!ああ、毎日の帰り道がこんなに楽しかったら良いのに!」

名前は真っ白な歯を見せながら笑った。俺は少しの早足で、彼女の足取りを追い掛ける形で隣に並んでいた。結局名前は煉獄家の表札が見えるまでその不思議な歩き方を続けて跳ねた。俺にとっても、こんな風に騒がしく笑い続けて帰路へ着くことは初めてだったので、本当は彼女のそれを真似たいくらいには心が踊っていた。毎日の帰り道がこんなに楽しかったら良いのに。彼女の言葉を反芻した。その通りだと思うのだ。同時にそれは小さな日常を愛しむ名前が居なければ成立し得ないだろう。



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