「あの、不死川君居ますか?」
「いや、教室には居ない。先程職員室に呼ばれて行ったばかりだ」
「そうですか」
「…何か用があるのなら伝えておくが」
「ああ、ではこれ、不死川君に渡しておいて貰えますか?チョコレート。今日はいっぱい貰っているでしょうけど」
「不死川に、チョコレート」
「あっ勘違いしないで下さいね!これは友達として…というか、普段のお礼みたいなものですから。わたし不死川君の弟と仲良くて、可愛がってもらっているんです」
「すまない、別に勘ぐった訳では」
「でも誤解されると不死川君怒りそうだから一応。それと、万が一彼のファンにそんなふうに思われてしまったら大変です」
「ファン?」
「あ、その話は彼には言わないでください」
「不死川にはファンが居るのか」
「先輩にもいますよ」
「俺にも?」
「はい。大勢」
「君はその内に入っているのだろうか」
「いえ、私は違うと思いますけど…どうかな。ファンといっても別に正式なクラブがあるわけでも無いし、具体的な活動がある訳ではない、曖昧なものですけど」
「そうか、残念だな。俺にも君からチョコレートの手渡しがあると良かった」
「ふふ、何を言うんです?先輩こそ、たくさんの女の子から頂いているでしょう?わざわざ私がお渡しするまでもないです」

君からのそれが欲しかったとは言えなかった。今己の手の中にあるチョコレートの箱を手にした名前が廊下の端から見えた時、体に緊張が走ったことは絶対に言えなかった。名前と俺が直接的な接点が無かったとしても、今の会話が二人の初対面という位置付けだったとしても、俺が名前を想っているように彼女も何らかの理由で俺を意識の中に存在させてくれている事を願っていた。現実はそう上手くはいかない。「授業始まるので戻ります」彼女はとうとう、俺の名を一つも口にせず、背を向けて歩き出してしまった。



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