「煉獄さん大変です。訳の分からない血鬼術を食らったせいで、わたしが4人に分裂してしまいました」
「…ハァ。胡蝶さんに診てもらった結果解決策が見当たらなかったので、いくら頼れる煉獄さんでも、成す術はないと思いますけど」
「うぅ…っ…」
「いつまでも泣かないで下さい!煉獄さんに私の不細工な泣き顔を晒さないで欲しいです!」

真剣に事の経緯を説明する落ち着いた名前、増えた自分の姿を一人ずつ見回し、溜息をつく疲れ切った名前、目いっぱいに水分を溜め、頬に涙の跡がくっきりと残っている泣き顔の名前、に怒鳴ってハンカチを投げつける眉を釣り上げた名前。計4人。果たして4人の中のどれが本物の彼女なのか。否、彼女の言うように全て本人と言えるのか。それならば情緒がどうしてこうも違っているのかと思考してみるが、答えは簡単だった。彼女は元から気分屋なのだ。4人の彼女に囲まれて困ってしまった。彼女らはもう、順番を守っての発言などしてくれない。

「一先ず、屋敷に戻ろう名前」
「そうしましょう。なんだか疲れてしまったので眠りたいです」
「っ…じ、じゃあ煉獄さん、屋敷まで手を繋いでくれませんか?有るのは私の同じ顔ばかりで、気がおかしくなりそうですっ」
「分かった。それで君の不安が少しでも軽くなるのならいくらでも、」
「ちょっと煉獄さん!4人とも私だと言えど、私以外のわたしと手を繋いでいる貴方を見たくはありません!」
「む、そうか…」
「仕方ないじゃないですか、先程みたいに泣き喚かないだけマシです。ただしもう一方の手は私が繋ぎます、皆さん、というか私達、誰が胡蝶さんや煉獄さんに事の経緯を一から、しっかりと、何度も!説明していると思っているんですか?わたしですよ」
「それと手を繋ぐ事になんの関係も無いです!こじつけ!」
「もう私、眠くなってきちゃいました。今回の鬼は見ての通り強敵だったんですよ。煉獄さん、私屋敷まで歩けそうに無いのでおんぶして下さい」
「……頭がおかしくなりそうだ」
「うっ…ですよね。未熟なばかりにこんな事になってしまってごめんなさい。折角、煉獄さんの元で鍛錬を積んでいるというのに…」
「どうか泣かないでくれないか。無事に、とは今回ばかりは言えないのかもしれないが、戻ってきてくれただけで十分だ」


言い頭を撫でてやると、泣いていた彼女はぴたりと涙を溜める事をやめ、頬を染めた。怒っている名前の手を取り、眠気と戦っている名前を背中に乗せた。「煉獄さんは、全ての私に優しいんですね」正面で1人の名前が僅かに目尻を下げて微笑んでいる。「君だけだぞ、全く」名前の事は全てではなくとも、知っている。4人の彼女が皆きちんと自分との時を共有してきた彼女本人であるという事が分かる。正面の名前が息を呑みながら可愛らしく照れてくれたので、この状況を不謹慎ながら美味しくも思っている己がいる。



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