腰を下ろす一部を軽く手で払って、ベンチにかけた。踵は熱を持って、じんわりと優しい痛みを名前に知らせ続けていた。デートに気合いを入れて、新しいヒールを履いて来た所為だ。まだ足に馴染んでいないそれは、名前の皮膚を容易く傷付けた。だが名前は、ヒールを脱いで自身の踵の具合を確かめる事はしなかった。そうしてしまえば気分が心底萎えそうであったし、できたらこの問題は彼と行動を共にしている間は秘密にしておきたかった。そんなふうに、まだ余裕が生まれる程の僅かな痛みなのだ。とはいえ煉獄は飲み物を買ってくると言い残し名前をベンチに置き去りにして、どこかへ消えてしまった。名前は煉獄が戻る間、今日のデートで出た話題の一つの、冷やし焼き芋というスイーツの味を想像してみたり、目の前に広がっている柵に囲まれた池を眺めたりしていた。靴の中で名前の足はきちんと痛みを持っていた。池は美しいブラウンのカモが、入浴剤を溶かしたようなグリーンの池に浮かんでいた。

「名前、戻ったぞ」
「おかえり。コンビニまで行ったの?」

背後から急に現れた煉獄は、店のロゴが入ったビニール袋を、名前に見せるように持ち上げた。冷えた缶コーヒーが外気にさらされ汗をかき、ビニールにぺったりと張り付いている。二つのそれらの他に、絆創膏の箱が袋の中には存在した。煉獄の表情を確かめようとする前に、彼は名前の足元にしゃがみこんでヒールのストラップに手をかけていた。

「足が痛むんだろう?脱がせても構わないか」
「…いつから気付いてた?」
「見ない靴を履いているとは、最初から思っていたんだ」
「結構見られているんだ」
「ああ。君の事なら大体は」
「怖」
「わはは。そうやって隠そうとするから、尚更気が抜けない」
「……」
「箱から二枚出してくれ」

煉獄は名前の靴を優しく脱がせて、踵の具合を調べた。彼を目の前に跪かせてしまっている状況は名前にとって居心地が悪く、若干の羞恥心を煽るものだったので、取り出した絆創膏二枚を指で弄って気を紛らわせた。こんなに近くで観察されてしまうなら、ネイルをもっと大人っぽいものに塗り替えておけば良かったと思った。絆創膏が彼の手に奪われて、踵にぺったりと貼り付けられる。「…ありがとう、煉獄」踵は痛みの継続をやめて、かわりに甘い痺れを齎した。


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