瑠火さんにお雑煮を教わる

なまえの身に着ける前掛けは瑠火さんとお揃いのもので、真っ白な生地だけれど、裏面に実は小さく、なまえの名前が刺繍されている。それは勿論瑠火さんが入れてくれたものだ。煮立ち始めようとしていた鍋の火をなまえは止めてお玉を取り出した。良い香りの湯気がふわふわと透明な蒸気になって台所に充満している。小皿にすこし、汁を掬って取った。瑠火さんに差し出す。「良い香り」瑠火さんは笑っている。なまえも嬉しくなった。瑠火さんがこうやってにこにこと笑ってくれる事は滅多に無い。すこし口角を上げるくらいなら良くするけれど、千寿郎君みたいに眉を少し下げて笑う杏寿郎君の母が、とても好きだ。「熱いですよ。気を付けて」なまえが言うと瑠火さんは二回くらい、更に小さく息を吹きかけて、そおっと口に含んだ。なまえはそれを、お玉を握ったまま見つめた。瑠火さんに教わった手順で、お雑煮の汁を作ったのだ。

「美味しく出来ましたね、なまえさん」
「わ!良かった。私も味見させてください」

瑠火さんは私に小皿を返して、それになまえはもう一度掬った汁を取って、逸る気持ちで熱を冷まさないまま舌の上に乗せた。「熱いですよ。気を付けて」瑠火さんが私の真似をして言った。舌が少し、焼けてしまったみたいだったけれど、とっても優しい味で美味しくて、なまえはやっぱり、瑠火さんの真似をして「美味しく出来ましたね、瑠火さん」と言って笑った。二人の間で、言葉の真似を自然な流れで挟むのが、流行っているのだ。そのせいでなまえの言葉遣いは若干、瑠火さんに似てきてしまっているかもしれない。杏寿郎君らはお外でお餅をついてくれている。たまに此処まで槇寿郎さんが大きな声で何かを言っているのが聞こえてくる。(怒鳴っている訳では無さそうだ。)小皿を流しに置いたところで瑠火さんに向き直って、お礼を言った。

「なまえさん、実は私も、槇寿郎さんのお母様にこの味、教えてもらったんですよ」
「ええ!じゃあ、煉獄家代々この味ですか?」
「そうですよ。なまえさんも、もう煉獄ね。」
「えっ…ちょっと、そういう事は杏寿郎さんに言ってくださいよ」
「杏寿郎って、冗談通じない所ありますから」
「えっ…冗談なんですか」
「ふふ、なまえさん、そうだと困りますね。私にとって大切なお料理、教えましたから」
「る、瑠火さん…好きです!」
「ちょっと、そういう事は杏寿郎さんに言ってくださいよ」

瑠火さんが笑っている。なまえも嬉しくなった。火傷した舌の先が、ちょっぴり、ひりひりしているけれど。






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -