槇寿郎さんにお年玉をもらう

「私初詣行かない」

掘り炬燵にて猫背気味に、机に向かっているなまえが言う。先程食べたばかりの年越しそばの器が、なまえのものだけ机に取り残されている。飾りとして入れた三つ葉を、なまえが食べ残したせいだった。故に、椀の中には三つ葉が底にぺったりと張り付いている。いつもならなまえの苦手なものは煉獄が横から奪ってしまう所だが、今日は二人の正面に居た槇寿郎がそれを許さなかった。好き嫌いするな、となまえに怒鳴った。そうしてなまえは機嫌を損ねているらしい。外出の為の身支度を終えた千寿郎が軽い足音を立てて戻ってきた。むすっと炬燵から動かないなまえの顔を、千寿郎は覗き込んだ。

「なまえさん行きますよ。早く支度して下さい。人が多くなってきますから」
「やだ、行かない」
「…父上に怒られたくらいで大袈裟な」
「フン」

なまえは机の上で腕を組んで、そっぽを向いた。その様子を見て煉獄は少し、笑ってしまう。父となまえは仲が悪いのではなく、寧ろ、逆だ。たまに父の盆栽の手入れを手伝ったり、酒の相手をしていたりする。だからこそ小さな喧嘩が長引いているのだろうけれど、千寿郎が困っていると、さっさと出ていった父がそろそろと戻ってきた。不貞腐れているなまえを見て一度、ワザとらしく大きなため息をつく。そうしてなまえに近付き、立ったまま、彼女の顔の横にポチ袋を差し出した。

「いつまで不貞腐れてるんだ。露店が終わるぞ」
「……露店あるんだ。ふーん。でも、行かないですけど」
「……早く行け。駄賃をやる」
「えっ………」
「………」
「………本当ですか?」
「本当だ。その代わり三つ葉は食え」

なまえは目をきらきらと輝かせている。そうして早急に椀に張り付いた三つ葉を箸で口へ放り込んでいるものだから、煉獄と千寿郎は顔を合わせて二人に背を向け、忍び笑いを漏らした。






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