閨で抱き合う

煉獄と、抱き合っている。閨で、だ。文字通りにそうしている。それはもうがっしりと、という表現が似合う。劇の一部分だったのなら息を飲んでしまうような互いの熱い抱擁。煉獄の心音が自身の胸越しに伝わってくる。とくとく、と少し早めの調子で脈打つそれ。憧れでもあり、恋焦がれる存在でもある彼、煉獄と、何度こうして抱き合う事を夢に見た事だろうか。とふわふわと浮きたつ気持ちの頭片隅で思いながらなまえは、鼻腔に届いた微かな血の香りを逃さなかった。なまえは常人より鼻が利くから煉獄には、この物騒な匂いは届いていないと思われる。浪漫ちっくな雰囲気をぶち壊す様な雑な声色で、なまえは口を開いた。同時に額が焦燥の汗で濡れる。

「煉獄、無事?」

血鬼術だ。段々となまえは霧がかっていた脳を覚醒させて、鬼の気配がする人里離れた屋敷に煉獄と二人、腰の鞘に手を掛けながら入って行った事を思い出した。寝室に踏み入った事が発動条件となってしまったのかは定かではない。なまえは段々と状況を把握しつつ冷めてゆく脳内で、男女が抱き合う血鬼術って、どんな血鬼術だよ。と訳の分からない術に対し愚痴をこぼしつつ、故に気付くのが遅れてしまった、と煉獄の背に回していた手を離して、ちょっぴりと反省した。部屋の壁や天井が、暖色の明かりに照らされてゆらゆらと反射していて如何にも色っぽい情緒を醸し出しているふうだが、光源が見当たらないのでこの部屋自体が鬼の造った部屋であると推測できる。手を離し、煉獄の肩を揺さぶれば、彼はなまえを更にきつく抱きしめた。加減の無い強さに、う、と思わず声が漏れる。

「なまえ」
「うわっ!」

耳元で。熱っぽく艶のある声で、名前を呼ばれて思わずのけ反る。ぞくりと擽ったさで震えた。それでも彼は簡単に抱擁を解いてくれそうには無いので、なまえは肩に掴みかかって、煉獄と距離をとる。この場の鬼を倒せばまた二人、共に階級が上がるというのに、こんな訳の分からないお色気術にかかりっぱなしとは。勘弁してほしい。思いつつ煉獄の甘い気配が残る片耳を掌で覆いながらなまえが目前に視線をやれば、頬を染め、意味深な鋭い瞳でこちらを捉える煉獄と目が合った。

「……そんな顔私に晒して良いの?」

煉獄に想いを寄せるなまえとしてはもう少し彼のその性的な欲に満ちた表情を眺めていたい気持ちは山々であるが、近付く鬼の気配に、現実はそう甘くないのだなと舌打ちを零す。なまえは再び腕を伸ばしてくる煉獄の後ろ首めがけて、無意識に力の入り過ぎた手刀を落とした。






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