縁側で切った指を舐める

煉獄家の庭は、なまえが手入れをするようになってから緑や花の色が、増えた。煉獄は縁側に珍しく着物を身に纏って掛けながら、花や植木の手入れをするなまえの後ろ姿を眺め、そんな風に思っていた。こんなのんびりとした雰囲気は、煉獄を幸せにさせる。植木の葉をめくり眺めるなまえは同じく隊服を脱いでいて、着物姿であった。はんなりとした橙の色味をしたうらうめ柄の、見た事の無い生地だ。

「似合っているな。君にとても」

主語無しに言えば、なまえは何の事か理解した表情でこちらに顔の向きを変えて視線を合わせるが、直ぐに目を流して彼女の注意は再び庭の葉に、移ってしまう。だが隠しきれていない嬉しそうな、桃色の頬に、煉獄は忍び笑いを漏らす。本当にそういうところが、可愛らしい。

「わ、」
「どうした」

絵の中の人物のように佇み葉を手に取るなまえが途端にびくりと体を揺らせて数歩下がる。肩に留まっていた髪がさらりと揺れ背中へ落ちていった。

「蜂がいるから吃驚した」
「なんだ、危ないから寄らない方が良い」
「熊蜂だけど。…でも見て」
「ん」
「驚いたとき葉先で切れちゃった」

縁側に座り込む煉獄に向かってなまえは人差し指を突き出す。白魚の様な綺麗な手に、ぷつりと切れ込みが入って血が一滴、今にも彼女の人差し指から滴ってしまいそうな程ふくらみをつけてその場に留まっている。大したことは無いだけに、煉獄は座ったまま手招きをして、なまえを縁側の方へと呼びつけた。素直にこちらへ寄ってくる。

「見せろ」
「ん。直ぐ止まるよ」

彼女は指を煉獄の顔の前に突き出してくるので、手首を掴んで焦点の合うところまで持っていき、傷の具合を診る。本当に小さな傷だが、こういうのは地味に痛いものなのだ。つ、と。とうとうゆっくりと垂れてゆく真っ赤ななまえの血を、煉獄は手首を持ったまま、自身の口元へ運んだ。指先を軽く含み、舌先で血を掬い取る。ほんのりと鉄の味が口内に広がった。

「ちょっと、杏寿郎」

咎めるような声が聞こえる。それでも煉獄の舌が触れている指が抵抗をしないのをいい事に、ちょっとした出来心でなまえの指先を軽く吸い上げ、さっきよりも幾分か強く、でも優しく、舌先を押し当てた。そうすると目端のなまえの、綺麗に並んでいる膝がぴくりと反応をしてくれるので、煉獄はさらに指を深く咥え込もうとした、ところだった。

「も、もういい!余計な事まで、してるでしょ」

勢いよくなまえの手が彼女の元に下がって行ったので、咥えようとしていたものが無くなった煉獄の口は自然と閉じる。なまえの顔を見やれば、目を何時もより大きく開けて、照れているのか下唇を軽く噛んだままでいる。付き合ったばかりの頃は、こんな事を彼女にしてしまえば真っ赤になってくれたものだが、最近では一筋縄でいかないようだ。なので煉獄はわざと、なまえに見せつける様にしてぺろりと舌を出して自身の口元を舐めてみせる。勿論視線は絡ませ合ったまま。さて、どんな反応を見せるだろうか。






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -