古小屋


「けほっ…」

汚れて曇りきった窓から朝日が差し込み、チンダル現象が起きている。差し込む光の筋に舞う埃がはっきり見えた。ホコリ臭さに思わず煉獄杏寿郎は羽織で口元を隠しひとつ咳をした。


-------

怪我をした。右足の骨が鈍く痛み違和感があった。折れているのかもしれない。先程の戦闘で逃げ足の速い鬼の攻撃を、逃がすまいと焦り変な受け身で流したせいだった。だが結果的に止めを刺す事が出来たのだから満足していた。現在鬼殺隊階級、甲である煉獄は頭の片隅で今までに倒した鬼の数をざっくりと思い出していた。後数体、鬼を葬れば柱選定基準の土俵に立てる。辺りが明るくなり始めた林の中をズルズルと痛む足を引き摺り歩いていれば、ぼろい小屋に行き着いた。劣化が激しい事から、人の出入りは何年も無さそうな小屋だ。一先ず休息が欲しかった煉獄にとっては有難い。休み処に使わせて貰おうと思った。小屋の戸は付いておらずかわりに伸び切ったツタの葉がのれんのように入り口に垂れ下がっている。片手でツタの葉を掻き分けると、止まっていた蝶が場所を無くしふわりと飛んで行った。見えた中に目を凝らす。埃や塵が積もってはいるが、家具は一切なく、角に縁の欠けた花瓶と短めの鉄パイプが一本あるだけだった。腰を下ろすくらいは出来るだろう。

「けほっ…」

遠慮なく中に入ってみれば、煉獄が入ってきたことによって長年底にあった埃がぶわりと宙を舞った。汚れで曇り切った窓から朝日が差し、舞う埃の粒子がはっきりと見えている。思わず煉獄は羽織で口元を抑えつつ咳込む。ぎしぎしと鳴る木の床の音と、足を引き摺る音だけが静かに響く。小屋の内部へ進み、壁にもたれかかるようにして座り込んだ。


「誰かいるの?」


煉獄は不意に聞こえた少女の声に咄嗟にというか本能で自身の刀の鞘に手を掛け体を強張らせた。部屋内をぐるりと見回す。すぐにおかしなことに気が付いた。声はすぐ傍から聞こえた気がしたのに姿がないのだ。外からの声だったのだろうかと煉獄は一度、重い腰を上げて立ち上がる。一度小屋を出て確認しようとしたところで、再び少女の透き通った声色が部屋に響いた。

「此処だよ。あなたの正面の、壁。」

確かにはっきりと聞こえる声に煉獄は内心動揺しながらも、自身の正面の壁を見やった。壁、と言っても外から伸びてきたであろうツタが壁を伝うように生え、覆いつくしてしまっている。所所から見える木目で確かにそこには壁がある事だけは分かった。人間、小さくても少女が隠れられるようなスペースは無かった。どういうことなのだろうと思案していると生い茂るツタの間から僅かに木彫りの額のような角が見えた。壁、と言われたがそれくらいしか発見できなかった煉獄は、近寄ると片手でぶちぶちとツタを遠慮なしに引きちぎりその額の全貌を見る。

「うっ、!」

丁度露になったその時、朝日の入射角度が変わり光が額を照らすように注いだ。絵画であった。牡丹を背景に、人形のように美しい少女が頭から胸元下あたりまで、額いっぱいに描かれている絵だ。煉獄が驚き声を発してしまったのは、その絵画の少女が確かに、煉獄に表情を変えて微笑んだからであった。驚いて数歩後ずさりし仰け反った煉獄に、絵画の少女はくすくすと口元を抑えつつ、声を出して笑っていた。








×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -