倍返し

前回あった日から20日後、煉獄は柚季のいる小屋へとやってきていた。煉獄は小屋の中にぽつんとある年季の入った花瓶の下の方に、なにか彫られているような模様を見つけ、花瓶に蓄積された埃をその部分だけ親指で拭った。露になった模様は蝶だった。なんだか既視感のある蝶のデザインに、有名な花瓶なのだろうかと思案したが、煉獄はこういった可愛らしい模様には興味がなかったため、結局は良く分からなかった。もしかしたら花が好きな母親がこれに似た花瓶を使っていたから故の既視感なのかもしれないが、真相は良く分からないまま煉獄は胸の内で完結させ、そういえば、と柚季に言おうとしていた土産話を切り出した。

「とうとう、柱の選定基準に達したんだ。」
「ええ!本当!?って事は、鬼を50体斬ったの?」
「ああ、此処まで長かった。柱に選ばれるかはまだ分からないがな」
「杏寿郎君ならきっと大丈夫だよ」
「珍しく体が落ち着かない」

だからか、と柚季はいつもだったら床に座り込んで話をしだす煉獄が、そわそわと小屋の中を歩き回り、花瓶を手に取って眺めてみたりという落ち着きのない行動をするのに納得がいった。柱かあ、と柚季は懐かしい記憶を思い起こす。自身がいた時の鬼殺隊は既に長らく、同じ面々の柱が9人、揺るがぬ地位を保っていたため柚季は柱になりたいという気持ちはあまり芽生えなかった。それどころか甲ですら、激務続きで大変苦労したのだから。そんな苦労など容易いものだとでもいうように、煉獄は鬼殺隊の愚痴などを一切零さず、前だけを見て確実に精進して行っている。実際、初めて会った日より比にならないほどに彼が強く成長しているなんてことは煉獄を纏っている空気で、柚季にも分かった。

「杏寿郎君って格好良いね」
「……、それはどういう意味で言っているんだ」
「うーん、いろんな意味で。強くて格好良いし、弱音を吐かない男らしさも格好良いし、ああ、後、ご飯を食べてる所も好きかなあ。」
「……」
「女の子から、モテるでしょう」
「……そんな風に言われたのは今が初めてだな。しかも途中から君の好みに変わっているが」
「あっ…」

煉獄に言われ気付いた柚季は、はっと目を開き口元を抑えた。そういった感情に鈍感である煉獄は大して好きと言われたことに対して何とも思っていない風だった。それに柚季はすこしばかりむっとしたが、実際絵画に映っている自分は内面が成長しているといえど外見は12歳の少女のままなのだ。自分より幾分も年下の見た目をしている少女に好きと言われたって、何か思うはずがなかった。

だからこそ、柚季に悪戯心が芽生えた。自分は12歳なのだ。少しばかり押し気味で自身の気持ちを言ったところで煉獄はああそうかと受け流してくれると思ったのだ。柚季は小屋内をうろうろする煉獄にバレないようにニヤリと意地悪く笑むと、作ったような可愛げのある声で言った。

「それに杏寿郎君、顔も格好良いじゃん。私、結構君の顔好みだなあ」

さて。真面目な彼は一体どんな反応を返してくれるのだろうと柚季はワクワクしながら煉獄の反応を待った。彼は言葉を聞くと、うろついていた足をぴたりと止めて体ごと柚季に向き直り腕を組んで、なんとこう言ってのけた。

「ああ、柚季の言葉にはなんとも返答しかねるが、俺も君の顔は綺麗だと思っていたぞ!年をとれていたら今頃は20だろう?きっと君は、今の容姿から想像するに目を見張る程美しい大人の女性に成長していたに違いないだろうな!」
「…えっ」

煉獄のその堂々とした態度と女心をぶち抜くような言葉に柚季は耳まで真っ赤にして赤面した。鈍感な煉獄の方が上手。惚れてしまった柚季の負けだったのである。あまりの衝撃的な発言に真っ赤になりながら言葉を無くした柚季に、きょとんとした様子で首を傾げた煉獄だった。






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -