町外れのくたびれた廃屋に、月明かりが差す。
屋根に立つ折れかけた十字架や、穴だらけになって色褪せたステンドグラスでかろうじて教会だったと分かるその建物はかつての清廉さは残しておらず、夜闇も相俟ってまるで巨大な墓標のような不気味さを漂わせていた。


「ねえ、騎士さん」
「どうされましたかな。デボラ殿」


教会の中には影がふたつ。
婚礼衣裳に身を包んだ女と、全身を白銀の鎧に覆われた騎士。
彼等は一つの大きな瓦礫に並んで座り、天井にぽっかりと空いた大きな穴から星空を見上げていた。


「あの人…今日も来てくれなかったわね」


その声はひどく掠れていて。
纏うドレスやベールは薄汚れて所々に穴が空いて傷んでおり、衣服で隠しきれていない素肌は冗談のように青白い。
教会と共に風化されていったかのような彼女は溜息をついた。


「私も此処も、こんなになってしまったのに……もう彼は、私を迎えに来てはくれないのかしら…?」


上向かせていた首を下げ、デボラが歎く。
ドレスの裾の傷一つ一つを同じくぼろぼろの手袋で悲しそうに撫でていた。


「私はもう、前みたいに綺麗じゃなくってしまったの。こんな荒ら屋みたいな教会じゃ、ぼろ布みたいなドレスじゃ…こんな、こんな……こんな化け物みたいな顔じゃ……例え彼が来てくれたとしても、もう…」
「デボラ殿」


それ以上は言ってはいけない、とでも言うかのようなナイトの声。穏やかながら有無を言わさぬ凛としたその聞き慣れない声に、デボラは思わず口を噤んだ。


「貴女は、美しい」


予想していなかった言葉に、動揺しないはずがない。
けれど、鉄仮面に隠されて表情を読むことのできないはずの彼の、その声は。
言い慣れない甘い言葉に照れているのがすぐに分かってしまう、いつもより頼りなく、小さく震えた声だった。


「…貴女は、美しい。きっと私と出会う前から…今も、そしてこれからも、ずっと…っ……、」


最後の方は消えてしまいそうなほど小さな声だった。
初老の男性の低く洗練された、しかし緊張した余裕の無い、震える声でのロマンチックな台詞。それはなんだかとてもちぐはぐとしていて思わず笑ってしまう。彼の不器用な優しさが身に染みて、ベールの下で幸せに目を伏せたとき、頬に雫が一粒伝った。


「…ウフフ、ありがとう騎士さん。元気になれたわ」
「そ、それは何より…!」
「照れないで頂戴。私まで恥ずかしくなってしまうわ」


いまだに気恥ずかしいのか、互いに顔は見えない筈なのにしきりに顔を逸らすナイトの様子が可笑しくて、また笑ってしまう。


「騎士さんは彼が現れるまで…私を守ってくれるんだものね」
「ええ。勿論ですとも」


そう答えると、ナイトは立ち上がってデボラの前に跪き、驚く彼女の前で恭しく頭を垂れた。
天井の穴からはふわりと月が覗く。
まるで二人の微笑ましい様子を見遣るように、その白い光は優しかった。


「世界一美しい、貴女の為に」









***

んんんんんーなんかぱっとしない……。
ナイデボむずい。


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