小さな頃って、どんな遊びをしていた?
私はお人形やぬいぐるみとお話をするのが好きだった。今日あったこと、好きな食べ物やおもちゃのこと、教えてもらったお伽話、いつも考えている色々なことを、お人形やぬいぐるみにお話をしていた。
もちろん返事がかえってくることはない。だから私が喋れないお人形やぬいぐるみの代わりに相槌を打っていた。
「今日、こんなことがあったの」「へえ、すごいね。それでそれで?」と言った具合に。
中でも、手袋のようにして手に嵌めて、口を動かすことのできる人形が大好きだった。
ぱくぱく、と口を開閉しながら喋っていると本当の友達がそこにいるようで、私は楽しかったのだ。
とても、とても楽しかった。両手にその人形を嵌めると、三人で会話することもできたし、人形二人のお話を、神様が見ているみたいに聞いていることもできたから。



ある日いつものようにそのお人形と遊ぼうと思ったら、そのうちの片方が見当たらない。
おもちゃ箱の中はもちろん、ベッドの下やカーテンの裏など隅々を探したけれど、結局見つからなかった。捨てられてしまったのだろうか。
友達がいなくなってしまったようで、なんだかとても寂しくなってしまった。どことなく、残った片方の人形もしょげているような、元気がないような、そんな感じだった。
新しいのを買ってあげるから、と言われたけれど、私は曖昧に返事をしてしょんぼりとしていた。
その日からはなんとなくその人形と遊ぶ気にならず、おもちゃ箱の奥深くにしまい込んでしまった。
何日かは塞ぎ込んでいたけれど、新しいおもちゃを買い与えられるたび、私は次第にその人形のことなど忘れてしまっていた。
なぜだかそれを今、昨日のことのように鮮明に思い出す。














ねえアンテナ売りさん。
アンテナ売りさんの髪はどうしてそんなに長いの?


「お嬢様。それは、なかなか美容室に行く時間がとれないからですよ」


ふうん、そうなの。
やっぱりお仕事が忙しいからなのかしら。


「はい。ですが仕事を頂けるのは有り難いことですし、何よりも働いている間はお嬢様にお会いすることができますから、これ程幸せなことはありません」


そんなこと言われたら照れちゃうわ、アンテナ売りさん。
それじゃあ、どうしてアンテナ売りさんは眼鏡を掛けているの?


「それは、私はとても目が悪くて、これ無しでは何も見えないからですよ」


ふうん、そうなの。
不便なのかも知れないけれど、私、アンテナ売りさんにはとっても眼鏡が似合っていると思うわ。
すっごく格好よくて素敵よ。


「そんな…ありがとうございますお嬢様。この眼鏡のお陰で私は仕事をすることができて、そしてお嬢様の可愛らしいお顔をはっきりと見ることができています。本当に私は自分自身を幸せ者だと思いますよ」


もう、アンテナ売りさんったら…お上手なんだから…。
それじゃあ、どうしてアンテナ売りさんの耳はそんなに大きいの?


「それは、色々な声や音や音楽をしっかりと聞くためですよ」


ふうん、そうなの。
それじゃあ私の耳が大きいのは、アンテナ売りさんの声がよく聞こえるようにっていう、神様の贈り物なのかも知れないわね!


「私には勿体ないくらいのお言葉です、お嬢様。きっと世界中のどんな美しい音楽よりも、世界中のどんな美しい言葉よりも、貴方の声を聞くために私の耳は大きくなったのでしょう」


アンテナ売りさんったら、もう……。
そんな恥ずかしいこと平気で言うなんて…。


「そんなことよりもお嬢様。私の口が何の為に付いているのか、理由を聞いてくださいませんか」


え…?
わ、分かったわ。
それじゃあ、アンテナ売りさん。
アンテナ売りさんの口は、何の為に付いているの?


「それは、貴方に愛を囁くためです。そして貴方にキスをするため、です。貴方を愛しています、お嬢様…」


アンテナ売りさん、ありがとう。ありがとう。私、幸せよ。やだ、涙出てきちゃった。
私もアンテナ売りさんのことが好き。大好き。
だから最後にもうひとつだけ。
アンテナ売りさん。
私、アンテナ売りさんに抱きしめてほしいの。
でも、でもねアンテナ売りさん。





「アンテナ売りさんの首から下、どこに行っちゃったの?」







***
また意味なく取れた。





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